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1人社長が儲かると言われる理由は?役員報酬を決めるときの注意点と1人社長が抱える悩み・リスク

従業員を雇わず社長が1人で事業を運営する「1人社長」は、人件費などのコストを抑えて効率的に儲けやすいと言われます。法人でありながら社長が自由に働き方を選べることもあり、人気のある起業方法です。

 

個人事業主ではなく法人を設立して1人社長として事業を行う際には、役員報酬の決め方が重要です。この記事では、役員報酬の決め方や注意点、1人社長が抱える悩み・リスクについて解説します。1人社長のメリットを活かし、リスクに賢く備えることでビジネスの地盤を固めましょう。

目次

1人社長が儲かると言われる理由

1人社長が儲かると言われる大きな理由は、社長以外の人件費がかからないことです。固定費が少ない分、効率的に利益をあげやすいと言えます。その他にも1人で事業を運営するメリットを活かして、高収益を達成しているケースがあります。ここでは、1人社長が儲かると言われる理由を3つ紹介します。

人件費が削減できるから

従業員を雇用すると給与や社会保険料の負担が大きくなります。人件費は利益の多寡にかかわらず発生する固定費であり、利益を圧迫する要因となる可能性もあります。一方、1人社長の場合、社長の役員報酬以外の人件費がかかりません。そのため、会社に残る利益が増えやすくなります。

 

人件費を削減した分を事業投資に回すことで、より大きな収益を生み出すチャンスが広がります。たとえば、マーケティングや広告に投資して集客を強化したり、新しいサービス開発の資金を充てたりすることで、ビジネスの成長を加速させることが可能です。人件費を抑えつつ戦略的に事業を拡大できる点は、1人社長の大きなメリットの一つです。

自由な働き方を実現しやすいから

1人社長は自分の裁量で働き方を決められるため、時間や場所にとらわれずに仕事を進められます。特にオンラインを活用した業種の場合、自宅やカフェ、コワーキングスペースなど、どこでも働くことができる点は個人事業と変わりません。

 

収益性の高いビジネスモデルを構築すれば、短時間の稼働で利益をあげることができるケースもあり、仕事とプライベートのバランスを重視した働き方がしやすいのも特徴です。家族との時間を大切にしたり、趣味の時間を確保したり、自分に合った柔軟な働き方を実現できるメリットは大きいでしょう。

意思決定が早いから

組織が大きくなるほど意思決定に時間がかかる傾向があり、即決できないことでビジネスチャンスを逃してしまう場合もあります。しかし、1人社長であれば、会社のあらゆる判断は社長自身の決定にゆだねられているため、社内調整に時間を割かれることはありません。

 

市場のトレンドや顧客ニーズの変化に対応して自社の商品・サービスを改善したり、新しいアイデアをすぐに試したりすることが可能で、迅速な意思決定が大きな強みとなります。

役員報酬を決めるときの注意点

1人社長の会社で唯一発生する人件費が、社長の役員報酬です。役員報酬は制約が多く、毎月自由な金額で設定することはできません。適切な報酬額を設定しなければ、税負担の増加や社長自身の生活の不安定さにつながるリスクがあります。

原則として事業年度開始から3ヶ月以内に変更

毎月決まった金額で支払われる役員報酬を「定期同額給与」といいます。時間外手当などはつかないため、その名のとおり毎月同額です。定期同額給与は事業年度ごとに変更できますが、通常は事業年度開始から3ヵ月以内に変更しなければ損金算入ができません。

 

たとえば、事業年度開始から4ヵ月経過後に毎月50万円の役員報酬を70万円に増額した場合、差額の20万円分は損金算入できないため、その分だけ法人税などが高くなってしまいます。役員報酬の節税効果を活かすには、ルールに則った運用が必須です。

 

参考:国税庁「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

役員報酬が高すぎると個人の税金が高くなる

役員報酬を高く設定すると、会社の利益を圧縮できるため法人税など法人としての税負担が軽くなります。一方で、社長個人の所得は増えるため、所得税や住民税などの負担が増加してしまう可能性があります。

 

所得税や社会保険料は報酬額が多いほど負担が大きくなる仕組みです。そのため、役員報酬を高く設定するほど、社長個人の負担は重くなります。会社の節税のために役員報酬を増額したはずが、会社と社長個人の税金や保険料の負担をトータルで考えると、かえって負担が重くなるケースもあるのです。役員報酬を設定する際は、会社と社長双方の税金のシミュレーションをすることをおすすめします。

役員報酬が低すぎると生活が不安定になる

会社の利益を優先して役員報酬を低く設定しすぎると、社長の生活費を十分に確保できない可能性があります。会社が儲かっていても、社長が個人のお金として使えるのは役員報酬として支払われた分だけです。

 

先述のとおり、役員報酬は変更できる期間が決まっており、「生活が苦しいから増額しよう」と途中で気軽に増額できるものではありません。年度当初から適切な金額で設定しておくことが大切です。適切な役員報酬を設定するには、経営状況や税負担を考慮する必要があるため、専門家のアドバイスを受けるのが望ましいでしょう。

 

石黒健太税理士事務所では、法人と利益と個人の所得のバランスを考慮した最適な役員報酬の設定をサポートいたします。役員報酬の決め方に関するご相談は、ぜひ当事務所へお問い合わせください。

1人社長の役員報酬の決め方

役員報酬の決め方に迷ったときは、以下の方法を参考にして決めるとよいでしょう。自分で決めるのが不安な場合は、専門家に相談するのもよい方法です。

会社の収益予測を基に決める

前年度の売上や経費をもとに、翌年度どの程度の利益が見込まれるのかを予測し、その範囲内で役員報酬を設定する方法があります。具体的な方法としては、過去の売上データや市場動向を分析し、来期の売上予測を立てます。その後、固定費や変動費を考慮して、事業が黒字を維持できる範囲内で報酬額を決めます。

 

役員報酬の金額が法人税や社会保険料の金額と連動していることにも注意し、役員報酬を適切なバランスで設定することで、税負担を最適化しましょう。

同業他社を参考にして決める

適切な役員報酬の金額がわからずに迷うときは、特に同業種・同規模の会社がどの程度の役員報酬を設定しているのかを調査するのもよい方法です。業界団体の調査レポートや経営者仲間の情報を参考にすることで、同業他社と比べて高すぎないか、低すぎないかという観点で、自分の役員報酬が適切かを見直すことができます。

 

民間の調査会社などが発表している業界の平均値は、並外れて高い数値や低い数値も含めた金額のため、あくまでも参考にとどめましょう。比較対象とするのは自社と規模や地域が似た企業が望ましいですが、選定が難しい場合もあります。安易に他社を真似るのではなく、自社の状況を考慮することを優先しましょう。

個人の生活費を基に決める

最低限必要な生活費をカバーできる報酬額を設定しなければ、生活が成り立たなくなり、結果的に事業運営にも支障をきたす可能性があります。生活費を基準にする場合、まず月々の固定費(家賃、光熱費、食費など)や変動費をリストアップし、最低限必要な金額を算出します。たとえば、毎月必要な生活費が30万円であれば、年間360万円の報酬が最低限必要な金額です。

 

ただし、役員報酬を高く設定しすぎると会社の資金繰りが厳しくなる可能性があるため、会社の利益状況とのバランスを見ながら慎重に決めることが求められます。

 

関連記事:1人社長の社会保険料はいくら?具体的な計算方法と役員報酬8万円の社会保険料の金額

専門家に相談する

適切な役員報酬の金額を設定するには、会社の財務状況や税金、社会保険料など多くの要素を考慮しなければなりません。税理士などの専門家に相談することで、会社の健全な資金繰りを維持しながら税金の最適化も図るなど合理的な報酬設定が可能です。

 

石黒健太税理士事務所では、税務面や財務面を考慮しながら、適切な役員報酬設定のアドバイスをいたします。1人社長の役員報酬設定にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

 

税理士は経営のパートナーです。自社に合った税理士に出会えるかどうかが事業の成長に影響するといっても過言ではありません。以下の記事では税理士の選び方のポイントを解説していますので、税理士選びに迷ったら参考にしてください。

 

関連記事:企業の成長が加速する税理士の選び方は?依頼する目的から選ぶ税理士の選び方とポイント

1人社長でも開業できる職種一覧

自分の専門スキルを活かし、1人で一定の業務量をこなせる業種は1人社長で開業しやすいといえます。以下に挙げる業種は、オンラインを活用した自由な働き方を実現しやすく、1人社長として開業する人も少なくありません。

コンサルタント

コンサルタント業は、特定の分野での専門知識や経験を活かして企業や個人にアドバイスを提供する仕事です。経営コンサルタント、ITコンサルタント、マーケティングコンサルタントなど、自分の専門領域で活躍できます。

専門分野の豊富な知識や実務経験はもちろんのこと、クライアントとのコミュニケーション能力も必須です。選ばれるコンサルタントになるには、クライアントの課題を分析し、課題解決策をプレゼンテーションするスキルが求められます。

Webデザイナー

Webデザイナーは企業や個人の依頼を受けてWebサイトをデザイン・制作する仕事です。HTML、CSS、JavaScriptを用いたコーディング技術や、デザインツール(Photoshop、Figma など)を使用したデザイン制作スキルが必要です。また、クライアントが思い描くwebサイトを制作できるよう、ヒアリングを行い、UI/UXも考慮した提案を行うことも重要な業務のひとつです。

プログラマー

プログラマーは、システムエンジニア(SE)が作成した設計書に基づいて、プログラミング言語を用いてコードを記述し、ソフトウェアやアプリケーションを開発・テスト・保守する仕事です。プログラミング言語の種類は多様で、目指す分野の言語の知識は必須です。プログラムのエラーやバグを特定し解決するための問題解決能力のほか、技術書を読み解くための英語力も求められます。

動画クリエイター

YouTubeなどの動画プラットフォームでコンテンツを制作し、広告収益や企業案件で収益を得る職種です。動画編集ソフトを使いこなす技術だけでなく、カメラや照明の基礎知識など、動画の撮影と編集に関わる幅広いスキルが不可欠です。

より多くの人に見てもらえるような企画・構成力や、SNSを利用したマーケティング力があるクリエイターが活躍しています。複数の企画を同時進行し、企画、撮影、編集、マーケティングなどの多岐にわたる業務を1人で回していくためには、相当なディレクション力が必要でしょう。

不動産業

不動産業の中でも不動産仲介業は、初期費用を抑えて1人社長として運営しやすいビジネスです。売買契約や賃貸契約を仲介する仕事で、仲介手数料が主な収入源です。重要事項説明など宅地建物取引士(宅建士)しかできない業務があるため、1人社長の場合は社長自身が宅建士の資格を保有し、登録する必要があります。

また、顧客のニーズに合わせた物件を提案する能力や、関係者間の調整を行う交渉力、契約書作成などの事務処理スキルも重要です。

アフィリエイト

アフィリエイトとは、自身のウェブサイトやブログ、SNSなどで企業の商品やサービスを紹介するビジネスです。紹介を通じて商品が購入されたり、サービスが利用されたりすると、報酬が得られる仕組みです。

アフィリエイトで報酬を得るには、自身のコンテンツを多くの人に見てもらうことが前提です。魅力的な文章や動画を制作する力や、コンテンツマーケティング・SEOなどのノウハウがあると有利でしょう。すぐに成果が出ないケースもあるため、諦めずに継続できる人に向いている業種です。

ネットショップ運営

インターネット上で商品を販売するECサイトを開設し、自社商品や仕入れた商品を販売するビジネスです。実店舗をもたずにオンラインで展開する、近年注目されているビジネスモデルです。自身が制作したハンドメイド作品を販売するショップも数多く展開されています。

一見簡単そうに思われるかもしれませんが、フリマアプリなどのプラットフォームを利用して個人が物を販売する場合とは大きく異なります。独自のブランドを立ち上げて一から集客するため、Webマーケティング、クリエイティブ、商品企画、カスタマーサポート、商品管理など幅広い知識やスキルが必要です。

1人社長が抱える悩みとリスク

1人社長は自分の判断で柔軟に働けるメリットがある一方で、1人で事業を運営することによるリスクもあります。リスクを知って適切に備えることで、1人社長の良さを活かして事業を運営しやすくなるでしょう。

病気やケガのリスクへの備えが必要

1人社長は、会社の経営から実務まで全てを基本的には1人で担うため、病気やケガで働けなくなった場合のリスクが大きくなります。長期間仕事ができないと収入が途絶えてしまい、会社の固定費や社長自身の生活費がまかなえなくなる可能性があるため、十分な備えが必要です。

生活費や事業運営費の数ヶ月分を貯蓄しておくことで、万が一の際にも経済的な心配が少なくなります。貯蓄で備えるのが難しい場合は、就業不能保険や所得補償保険に加入して備える方法もあります。自分が休んでいる間に代わりに働く人手が必要な場合は、外注先や業務委託先を見つけておくとよいでしょう。

孤独感を感じやすい

1人社長は、従業員や同僚がいないため、日常的に孤独を感じることがあります。特にオンラインで完結できる事業の場合は、実際に人に会って話す機会が減り、ひたすらパソコンに向かう生活になりがちです。

意思決定や経営に関する悩みを相談できる相手がいると、精神的な負担を軽減できます。異業種交流会やオンラインサロンを活用する、信頼できるビジネスパートナーやメンターに相談するなど、意識して交流をもつことも大切です。

全ての業務を1人で行う負担が大きい

1人社長は頼れる従業員がいないため、営業、経理、マーケティング、事務作業など、あらゆる業務をこなさなければなりません。その結果、業務負担が増大し、本来のビジネスに集中できなくなることがあります。

過剰な負担を避けるため、クラウド会計ソフトやタスク管理ツールなどを活用して、事務作業の自動化や効率化に努め、社長が行う事務作業をなるべく減らしましょう。会計・経理などの事務を専門家にアウトソーシングすることも可能です。無理をしてすべてを自分で抱え込むのではなく、効率的な仕組みを作ることで、安定した事業運営が可能になります。

1人社長のお悩みはお気軽にご相談を!

1人社長は、コンサルタントやWebデザイナーなど自分の専門スキルを活かして起業する人に好まれる起業方法です。従業員を必要とせず、人件費が抑えられるため、効率的に利益をあげやすいというメリットがあります。フリーランスのような自由な働き方ができ、迅速な意思決定ができる点も魅力です。

 

一方で、フリーランスとは異なり、収益の状況や税負担を総合的に考慮して役員報酬の設定を慎重に行う必要があります。また、1人で法人の事務をすべて担うと社長の負担が大きくなりすぎるリスクもあります。自分だけで抱え込まず、経営のことを気軽に相談できるパートナーを見つけることが重要です。


石黒健太税理士事務所は、1人社長の経営のパートナーとして、事業の成長をサポートいたします。日常の会計処理や帳簿管理、税務申告のみならず、「役員報酬はどうしたらいいの?」といったお悩みも気軽にご相談いただけます。お電話での相談も受け付けておりますので、小さなことでもお気軽にご相談ください。

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