フリーランスが法人化する目安とタイミング
フリーランスとして働いて収入が増えてきたり、取引先の規模が大きくなったりすると、法人化を考える場面もあるでしょう。法人化を考える理由は人によって異なりますが、ここでは一般的にどのような場合に法人化するとメリットが大きいのかを解説します。
課税所得が900万円を超える
フリーランスが法人化を検討する大きな目安の一つが課税所得900万円のラインです。個人事業主が支払う所得税は、所得が増えるほど税率が高くなります。課税所得が900万円を超えると所得税率は33%です。一方、法人税は所得800万円を超えた部分の税率は23.20%と、所得税よりも法人税のほうが税率が低くなります。
実際には、個人事業主は住民税など、法人は法人住民税や法人事業税などの負担もあるため、所得税と法人税の税率のみの比較では一概に節税効果があるとは断定できませんが、課税所得900万円はひとつの目安として考えられます。
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年間の課税売上高が1,000万円を超える
年間の課税売上高が1,000万円を超えると、2年後から消費税の納税義務が発生します。たとえば、2025年に初めて課税売上高が1,000万円を超えた場合、2年後の2027年は消費税の納税義務者となります。消費税の納税は、業種や事業規模によってはかなり大きな負担となります。
しかし、法人を新規設立すると設立から最大2年間は消費税の免税事業者となることができます。個人事業主として消費税の納税義務が発生するタイミングで法人化することで、消費税の負担を回避または軽減できる可能性があるのです。
インボイス制度の関係で、取引先から適格請求書の発行を求められるケースも増えています。適格請求書発行事業者は必ず課税事業者となるため、法人化による免税期間の恩恵を受けられない点に注意しましょう。
関連記事:法人成りすると消費税の免除がなくなる?免除期間を長くするポイントと個人事業主への影響
円滑な事業承継を検討している
個人事業の場合、事業主が亡くなったり引退したりすると基本的に廃業となります。事業の資産や取引先との契約も、基本的には個人に紐づいているため、そのまま次の世代に引き継ぐことができません。家族や従業員が事業を引き継ぎたくても、手続きに時間と手間がかかります。
法人の場合は、個人事業主に比べて事業承継がよりスムーズにです。たとえば株式会社の場合、会社の所有権は株式として扱われるため、事業主が引退する際に株式を後継者(家族や従業員)に譲渡することで、会社そのものをスムーズに引き継ぐことが可能です。会社名義の銀行口座、事務所の賃貸契約、設備、顧客との契約なども法人に帰属するため、事業をそのまま維持できる点が大きなメリットです。
ただし、小規模なフリーランス事業で引き継ぐべき資産や契約がほとんどない場合や、個人の資格や経験に基づいてひとりで事業を行っている場合は、事業承継のメリットはあまり考慮しなくてもよいでしょう。
社会保険に加入したい
フリーランスの方の多くは国民健康保険と国民年金に加入しています。これらは全額自己負担で、将来受け取る年金額も比較的少なくなります。一方、法人化すると代表者は会社役員となり、 健康保険・厚生年金に加入します。逆に言えば、社会保険に入りたければ法人化するという手もあるのです。
法人が加入する健康保険には、 「傷病手当金」や「出産手当金」 などの手当制度があり、病気やケガで働けなくなった場合も手当を受け取れます。また、厚生年金に加入することで将来の年金受給額が増えるのもメリットのひとつです。国民健康保険と社会保険では家族を扶養に入れる要件も異なるため、家族構成によっては保険料の負担が軽くなるケースもあります。
社会保険料は役員や従業員自身と会社で折半して支払います。社会保険に加入したことで自己負担額が減っても、会社負担分も含めると大きな金額になる場合もあるので、事前のシミュレーションが欠かせません。
安定した収入が見込める
フリーランスとして活動していると、収入が月ごとに変動しやすく安定しないことも多いものです。しかし、毎月の売上に大きな波がなく、長期的に契約が継続するクライアントがいるなど、安定した収入が見込めるようになったら、法人化を検討してもよいでしょう。
法人を維持するためにはコストがかかります。たとえば、法人住民税の均等割は赤字でも毎年最低7万円は納める必要があります。決算や税務申告も複雑になり自分で行うのは難しいため、税理士報酬も必要経費として考えた方がよいでしょう。法人化して事業を維持していくためには、ある程度の安定した収入が不可欠です。
法人化を検討する際には、税金や社会保険料、法人の設立費用や維持費用など、さまざまなシミュレーションが必要です。専門知識がなく不安な方は、ぜひ石黒健太税理士事務所へご相談ください。会社設立に強い専門家がシミュレーションを行い、あなたの事業に最適なプランをご提案します。
関連記事:個人事業主が税金貧乏になる理由は?対策とお金の残し方を解説
1人で法人化するメリット
「法人化」というと、従業員を雇うような規模の事業をイメージする方も多いかもしれませんが、事業主が1人で社長となり、法人を設立することもできます。ここでは、1人で法人化するメリットについて、詳しく見ていきましょう。
従業員の管理が不要
法人化すると会社の代表者(社長)となりますが、必ずしも従業員を雇う必要はありません。 1人法人であれば労務管理や給与計算の負担もなく、個人事業主のような自由な働き方を維持できます。社会保険料の負担も代表者1人分で済むため、ランニングコストも抑えられます。
従業員を雇うかどうかは事業の成長に合わせてじっくり検討すればよいので、まずは1人で法人化し、軌道に乗ったら拡大を考えるのも賢い選択です。
自分の時間にあわせて仕事ができる
法人化しても、自分のペースで仕事ができる点は個人事業主と変わりません。会社に縛られずに自分の好きな時間に仕事がしたいと考えている方は、自分の会社をもつことに不安を感じるかもしれません。しかし、1人法人であれば働き方の面ではフリーランスのときと変わらない自由度が保たれます。
自分の好きな場所で仕事ができる
働く場所の自由度が高いことも魅力です。法人の所在地として登記した場所で毎日働く必要はありません。個人事業主と同じように、カフェやコワーキングスペース、海外など、自分の好きな場所で仕事ができます。
特に、最近ではリモートワークを前提としたビジネスも増えており、法人化しても在宅勤務やノマドワークを続けられます。オフィスを構える必要がなければ、固定費を抑えながら法人として活動することが可能です。
責任が有限化される
個人事業主と法人の最大の違いの一つが、責任範囲の違いです。個人事業主の場合、事業に関する借金や賠償責任はすべて個人に帰属し、事業がうまくいかなければ最悪の場合は自己破産の可能性もあります。
しかし、法人化すると、会社と個人は法律的に別人格となり、代表者(社長)は会社の負債について無限の責任を負うことはありません。 たとえば、法人名義で借金をして会社が倒産した場合でも、個人保証をしていない限り、社長個人の財産まで差し押さえられることは基本的にありません。
経費にできる範囲が広がる
法人化すると、個人事業主では経費として認められなかったものも法人の経費として計上できるケースが増えます。
たとえば、社長の給与は役員報酬として計上できますし、社長に退職金も出せます。自宅(社長の持ち家)をオフィスとして利用する場合、法人と社長の間で賃貸借契約を結び、法人が社長に賃貸料相当額を支払い、経費とすることも可能です。法人ならではの制度を活かして節税できるのも1人で法人化することのメリットと言えます。
1人で法人化するデメリット
1人で法人化するのはメリットばかりではありません。法人化には金銭的負担や精神的負担などいくつかのデメリットが伴います。メリットだけでなくデメリットも知った上で、あなたの事業にとってプラスになる選択をすることが重要です。
設立時と廃業時に費用がかかる
株式会社や合同会社などの法人を設立するためには、一定の費用が必要です。具体的には、登記申請にかかる登録免許税、定款認証の費用、税理士や司法書士への報酬などがあります。
また、いったん法人化すると廃業の際にも解散や清算手続きにかかる費用が発生します。開業届や廃業届を提出するだけで簡単に開業や廃業ができる個人事業とは大きく異なる点です。法人化する場合は、ある程度の資金力と事業の見通しが必要です。
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社会保険料の負担が増える
前述のとおり、法人は社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必要です。1人法人の場合は、社長の社会保険料を社長本人と会社で折半して支払います。個人としての保険料負担額は減っても、会社も社会保険料を負担することになるため、事前にシミュレーションをしておかないと、思いもよらない大きな負担となるリスクがあります。
オンとオフの切り替えが難しくなる
基本的な働き方は個人事業主の場合と変わりませんが、法人化したことでより経営者としての責任は重くなります。社会的な信用が増し、大口の取引先からの受注があるかもしれません。以前より仕事が増えたり、動かす金額が大きくなったりする可能性があります。
1人で仕事をする以上、仕事が増えても自分で行うしかありません。場合によってはオフの時間を取ることが難しくなったり、精神的負担を感じたりする可能性があります。
社内に相談できる人がいない
1人で自由に仕事ができる反面、日常的な業務や経営戦略に関して社内に相談できる人がいないというデメリットがあります。ときどき相談したいことはあっても、従業員として雇うほどでもないというケースも多いでしょう。
その場合は、経営の悩みを相談できるコンサルタントや税理士などの専門家と顧問契約を結ぶなどして、気軽に相談できる環境があると安心です。
事務手続きの負担が増える
法人化すると、税務申告や決算書の作成、年末調整、社会保険の手続きなど、事務手続きが増えます。個人事業主のときは比較的シンプルだった税務処理も、法人化により複雑になります。これらの業務を自分で行おうとすると、手間がかかるだけでなく、専門知識がない場合は手続きのミスが生じるリスクもあります。
事務作業の負担を軽減して事業に集中したい場合は、税理士や社労士などへ依頼することをおすすめします。
関連記事:会社が税理士を雇わないリスクは?税理士なしで法人決算をする方法と費用を抑えるポイント
法人化が向いているフリーランスの特徴
法人化のメリットとデメリットはわかったが、ご自身が法人化に向いているのかわからない方もいるでしょう。法人化が向いているフリーランスには下記のような特徴があります。
・収入が安定している
・節税効果を最大化したい
・事業拡大を計画している
・将来の事業承継に備えたい
・取引先や顧客からの信頼性を高めたい
法人化のためには初期費用や維持費用がかかるため、安定した収入があることは必須条件です。一定以上の所得がある場合には、法人化により節税効果が見込める可能性が高いです。また、法人化により社会的な信頼が増すため、資金調達や大手企業との取引など事業拡大の意欲がある方も法人化に向いていると言えます。
法人化が向いていないフリーランスの特徴
法人化は多くのメリットがありますが、すべてのフリーランスにとって最適な選択肢ではありません。法人化が向いていないフリーランスの特徴を理解することで、無理に法人化を進めず、自分に最適な選択をすることができます。以下のような特徴がある方には、法人化が向いていない場合があります。
・収入が不安定または低い
・経営の手間を増やしたくない
・将来的な事業拡大を考えていない
・プライベートの時間に余裕をもちたい
収入が不安定な人や、法人を維持するのに十分な収入がない人は、法人化するべきではないでしょう。また、決算や税務申告、社会保険の手続きなどの事務手続きが増えることがストレスになる場合や、専門家への報酬がもったいないと感じる場合は、個人事業のほうが向いている可能性があります。
積極的な事業拡大のビジョンがなく、プライベートの時間も大切にしながら自由に働きたい場合も、急いで法人化を検討する必要はないでしょう。
関連記事:個人事業主はあえて法人化しない方がいい?節税にならないと言われる理由と法人化する年収の目安
フリーランスが法人化に失敗しないためのポイント
法人化に失敗しないためには、法人化の目的を明確にし、目的が達成できそうかを事前にシミュレーションすることが重要です。具体的には、次のようなポイントに気をつけて検討を進めると失敗のリスクが減ります。
目的を明確にして法人化する
法人化の目的には、節税する、事業拡大を狙う、事業承継に備える、社会的信用を高めるなど、さまざまな要素があります。法人化の目的を明確にし、それを実現するための計画を立てることが重要です。
法人化後は、経営に関する新たな責任や手続きが増えるため、目指すべき成果を最初に定めておくことで、よりスムーズに進められます。経営資源(時間、労力、資金)の配分も戦略的に考えられるため、コスト削減にもつながります。
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法人化後の負担を把握する
法人が支払う税金には、法人税や法人住民税などがあります。特に、法人住民税の均等割は赤字でも支払わなければならない点に注意が必要です。
また、決算や申告は個人事業主の頃と比べて複雑になります。社会保険料の負担があることも忘れてはいけません。より正確に手続きを行うことや、経営者自身の時間を確保することを考えると、税理士や社労士の報酬も固定費のひとつと考えた方がよいでしょう。法人化後の金銭的あるいは時間的コストを考慮した上で法人化の計画を立てましょう。
しっかりとシミュレーションする
法人化後の財務状況はなんとなくイメージするだけでなく、しっかりとシミュレーションすることが大切です。法人化後の経営が安定するのか、税負担がどのように変わるのかを把握しましょう。
一定以上の所得があるフリーランスの場合、法人化によって節税効果が得られることがありますが、逆に負担が増える部分がないかは確認しておくべきです。たとえば、法人化後には法人税の支払いが必要になりますが、法人税率が個人事業主よりも低くなる場合、節税につながる一方で、社会保険料などのコストが増える可能性もあります。
法人化したあとで想定外の大きな出費があると、資金繰りの悪化にもつながりかねません。できるだけ細かくシミュレーションをしておくとよいでしょう。
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資金計画を綿密に立てる
法人化の際には設立費用としてまとまった資金が必要ですが、それだけでなく、事業運営に必要な資金繰りも重要な要素です。法人化後には法人税の納付や社会保険料の支払いが必要になるため、これらに対応できるだけの資金を確保する計画を立てておくことが大切です。
法人化に伴う資金計画を立てる際には、まずは初期費用(登記費用、専門家への報酬など)を見積もりましょう。その後、税金や役員報酬、社会保険料や税理士報酬など、法人運営のために必ずかかるコストを洗い出しましょう。
法人化後に必要となる支出を具体的に計算しておくことで、事業が順調に進んだ場合の資金繰りが安定し、予期せぬ経営の困難を避けることができます。
専門家に相談する
法人化して本当に節税ができるのか、法人化後のシミュレーションなどは、専門知識がないと正確な検討が難しいものです。自分では見通しを立てるのが難しい場合は、税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
専門家に相談することで、法人化に関するリスクや注意点を把握でき、手続きを円滑に進められます。法人化する前から信頼できる専門家と連携しておくことで、法人化の手続きや法人化後の税務申告や帳簿管理のサポートが必要になった場合もスムーズに対応してもらえるメリットもあります。
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フリーランスの方にとって、どのタイミングで法人化するかは悩みどころです。法人化のメリットやデメリットをしっかりと理解し、税金や資金管理のシミュレーションをしたうえで法人化を進めるためには、専門家の適切なサポートが必要です。
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