中小企業の資本金の平均額は?資本金を増やさない理由と税金との関係
「他の会社はどのくらいの資本金で運営しているのだろう」「資本金はいくらあれば安心するのだろう」と、悩んでいないでしょうか。資本金は会社の信頼性や事業の安定性に直結する重要な要素です。
会社を設立する時、避けて通れないのが資本金の決め方です。資本金は会社の体力のようなもののため、「資本金は多ければ多いほどいい」というイメージがあるかもしれませんが、そうとも限りません。
実は高額な資本金は、税金が増える可能性があります。「資本金は一体いくらに設定すればいいの?」と、疑問に感じるでしょう。資本金は、適切な金額を設定することが大切です。
この記事では、中小企業の資本金の平均額を参考に、資本金を決めるポイントや税金との関係についてわかりやすく解説します。この記事を読めば、あなたの会社にとって最適な資本金額がわかるでしょう。
目次
- 中小企業の資本金の平均額は?
- 資本金5,000万円未満は約9割
- 300万円〜500万円未満が多い
- 資本金はいくらあると安心する?
- 100万円未満:事業資金が不足しやすい
- 300万円:業種によっては許認可が受けられない
- 500万円:建設業許可申請ができる
- 1,000万円:設立時から消費税の納税義務がある
- 資本金1,000万の会社は大丈夫?利益との関係
- 資本金を増やさない理由と税金との関係
- 増資の手続きに費用がかかる
- 融資に比べて手続きが複雑になる
- 均等割が増える
- 持ち株比率に影響する
- 中小企業の優遇税制が受けられなくなる
- 資本金を決めるポイント
- 許認可が受けられる資本金を確保する
- 創業融資は自己資金の3倍が目安となる
- 節税を意識するなら1,000万円未満にする
- 運転資金の3ヶ月分を目安にする
- 銀行口座を開設するなら100万円以上にする
- 資本金の悩みは気軽に相談を!
中小企業の資本金の平均額は?
資本金は、事業の規模や業種によって大きく異なります。しかし、具体的に平均的な資本金がどの程度なのか、気になる方も多いでしょう。特に、これから事業を始める方にとって、気になるポイントとも言えます。
ここでは、中小企業の資本金の平均額について解説します。
資本金5,000万円未満は約9割
中小企業と一言で言っても、その定義は曖昧です。業種や従業員数、資本金など、様々な基準があり、場合によっては中小企業に該当したり、しなかったりすることもあります。
例えば、中小企業庁では、サービス業を営む企業を「資本金5,000万円以下」または「従業員数100人以下」と定義しています。
中小企業庁が定義しているサービス業の5千万円以下を例にすると、令和3年経済センサスでは資本金5,000万円未満は約9割です。ほとんどの企業が、5,000万円未満の資本金で事業を行っていると言えます。
これから会社を設立する方が資本金の額を決める際の目安として、5,000万円を上限として考えることができます。
参考:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」
参考:政府統計の総合窓口(e-Stat)「経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計」
300万円〜500万円未満が多い
さらに細かく見てみると、資本金が300万円から500万円未満の企業が特に多いことがわかります。これは、全体の約3割に相当します。
最低資本金制度の撤廃により、少ない資本金でも株式会社を設立できるようになった影響が大きいでしょう。撤廃後、起業家は必要最低限の資金で事業をスタートすることが可能です。
資本金を300万円から500万円未満に設定する理由としては、初期投資を抑えつつも、法人としての信用を得たいという思いがあるでしょう。また、300万円から500万円という金額は、事業を始めるための初期費用や運転資金として、必要最低限の金額を確保できる範囲とも言えます。
ただし、これはあくまでも平均的な数字です。実際に必要な資本金は、業種や事業規模、将来の展望によって大きく異なります。資本金や会社設立の悩みは、気軽にお問い合わせください。
参考:政府統計の総合窓口(e-Stat)「経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 企業等に関する集計」
資本金はいくらあると安心する?
具体的に、いくらの資本金があれば安心して事業を始められるか悩んでいないでしょうか。ここでは、資本金額ごとのメリットとデメリットについて解説します。
100万円未満:事業資金が不足しやすい
資本金を100万円未満に設定すると、設立時の出資金額を抑えることができます。手元の資金が限られている場合や、リスクを最小限に抑えたいと考える方にとって魅力的です。
しかし、この金額では事業を運営していく上で資金が不足しやすいという点は課題です。会社を運営していくには、事務所の家賃や人件費、設備投資など、何かとお金がかかります。資本金が少ないと、これらの費用を賄いきれず、事業の継続が難しくなる可能性もあります。
また、資本金が少ないと金融機関からの融資が受けにくくなり、資金調達に苦労するかもしれません。取引先からの信用も低く見られることがあり、大口の取引を逃すリスクもあります。
実際に、資本金が少ないことで事業の拡大が難しくなり、競合他社に遅れを取ってしまうケースもあります。そのため、資本金を100万円未満に設定する場合は、綿密な資金計画とリスク管理が必要です。
300万円:業種によっては許認可が受けられない
資本金を300万円に設定すると、ある程度の資金的な余裕が生まれ、小規模な事業運営には適しています。初期投資や運転資金を確保しやすくなり、事業のスタートダッシュができるでしょう。しかし、一部の業種では資本金の額によっては許認可が受けられない場合があります。
特に、特定建設業許可は最低でも2,000万円以上の資本金が必要です。資本金を300万円に設定することで、事業が制限されてしまう可能性があるため注意しましょう。
参考:国土交通省「許可の要件」
500万円:建設業許可申請ができる
500万円は、中小企業の資本金の平均額と言えます。事業資金として十分な額を確保できるだけでなく、対外的な信用力も高まります。取引先や顧客からの信頼を得やすくなるため、事業を安定して成長させることができるでしょう。
また、建設業許可申請も可能です。建設業の許可申請には、自己資本金額500万円以上が求められます。建設業に進出したい企業にとっては、必要な金額と言えるでしょう。
しかし、資本金500万円は、決して少ない金額ではありません。起業時に多額の資金が必要となるため、資金調達のハードルが高くなるというデメリットもあります。
1,000万円:設立時から消費税の納税義務がある
1,000万円は十分な事業資金を確保できるため、安定した事業運営が可能となります。また、金融機関からの信用も高く、融資を受けやすいというメリットもあります。さらに、取引先からの信頼も得やすくなるため、事業を有利に進めることが可能です。
例えば、海外企業との取引やM&Aなどを検討している場合、1,000万円以上の資本金がある方が、交渉を有利に進められる可能性があります。
しかし、資本金1,000万円以上は消費税が影響します。通常は、設立から最大2年間は消費税の納税義務が免除されます。ただし、期首の資本金が1,000万円以上の場合、設立時であっても消費税の納税義務は免除されません。
また資本金が1,000万円を超えると、均等割が高くなります。均等割は、資本金等の金額や従業員数によって異なるため注意が必要です。均等割について詳しくは後述します。
消費税や法人税などの税負担は、収益を上げられなければ経営を圧迫するリスクがあります。資本金を1,000万円以上にする場合、消費税や均等割の負担に注意しましょう。
参考:国税庁「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
資本金1,000万の会社は大丈夫?利益との関係
資本金は事業を開始するための初期投資や運転資金としての役割を果たすため、資本金の額が直接的に利益を生むわけではありません。資本金が100万円の会社は利益が出ないけど、1億円の会社であれば利益が出るわけではありません。
しかし、資本金が多ければ多いほど、銀行からの融資が受けやすくなったり、取引先からの信用が高まったりすることがあります。
国税庁の令和4年分標本調査結果によると、資本金1,000万円以下の法人に比べて1,000万円超の方が利益が出ている会社の割合が高いです。そのため、資本金が多いと経営が安定すると言えるでしょう。
資本金1,000万円の会社が大丈夫かどうかは、その会社が持つ事業計画や資金計画によります。資本金の額だけにとらわれず、しっかりとした戦略と計画を持つことで、利益を上げることが可能です。資本金はあくまでスタートラインであり、その後の経営努力が成功の鍵を握っています。
参考:国税庁「令和4年分標本調査結果」
資本金を増やさない理由と税金との関係
資本金は設立後に増やすことができます。企業の成長や安定を図るために、資本金を増やすことは一見良い選択に感じるでしょう。
しかし、資本金を増やさない方が有利な場合もあります。特に税金との関係において、企業に与える影響は大きいです。ここでは、資本金を増やさない理由と税金との関係について解説します。
増資の手続きに費用がかかる
増資を行う際には、手続きに一定の費用がかかります。資本金を増やすための手続きを司法書士に依頼する場合の報酬や、法務局に支払う登録免許税などです。
例えば、司法書士に依頼する場合、手続きの内容や会社の規模によって報酬は異なりますが、数万円から数十万円程度かかるのが一般的です。また、登録免許税は増加する資本金の額に応じて計算され、最低でも3万円は必要となります。
増資にかかる費用は、会社にとって決して小さな負担ではありません。特に、設立間もない企業や資金繰りが厳しい企業にとっては、増資に伴う費用が大きな負担となり、事業の足を引っ張ってしまう可能性も考えられます。
増資を行う際には、これらの費用も考慮に入れて慎重に判断する必要があります。
参考:国税庁「登録免許税の税額表」
融資に比べて手続きが複雑になる
資金調達の方法として、増資の他に融資という選択肢があります。融資とは、銀行や金融機関などからお金を借り入れることです。融資は返済義務はありますが、会社の資本金に影響しません。
増資と融資を比較した場合、手続きの複雑さという点で融資の方が有利です。増資の手続きは、定款の変更や株主総会の決議など、多くの手続きが必要となり時間もかかります。一方、融資は金融機関との契約手続きがメインとなり、比較的スムーズに進めることができます。
そのため、手続きが簡便で資金を得られる融資を選択する企業が多いのです。早めに資金を調達したい場合や手続きに時間をかけたくない場合は、融資を選択肢するといいでしょう。
関連記事:運転資金の融資が受けられる金融機関は?資金不足を解消する方法を解説
均等割が増える
増資をして資本金が1,000万円を超えると、均等割が増えます。具体的には、従業員数50人以下の場合、資本金が1,000万円以下であれば均等割は7万円ですが、1,000万円を超えると18万円です。資本金等の金額が1億円を超えると、さらに段階的に均等割が増えます。
均等割は赤字でも納付が必要なため、小規模な企業にとって大きな負担となります。資本金を増やさないことで、均等割の増加を避け税負担を軽減することが可能です。
参考:総務省「法人住民税」
持ち株比率に影響する
増資を行うと、既存の株主の持ち株比率が変動する可能性があります。
例えば、新しい株主から出資を受ける場合、その株主に対して新たに株式を発行することになります。これにより、既存の株主の持ち株比率は低下し、会社の支配権が薄れるかもしれません。
持ち株比率の変動は、経営方針や意思決定に影響を与える可能性があり、場合によっては、経営権の争いに発展するケースもあります。特に、創業者が会社の経営権を維持したいと考えている場合には、安易に増資を行うことは避けた方がいいでしょう。
設立後に持ち株比率を影響させないためには、設立時の資本金額の設定が大切になります。
中小企業の優遇税制が受けられなくなる
中小企業には、税負担を軽減するための様々な優遇税制があります。しかし、資本金が一定額を超えると、優遇税制が受けられなくなる場合があります。
例えば、少額減価償却資産の特例です。取得価額が30万円未満の減価償却資産を、取得した年に全額費用計上できる制度です。しかし、資本金が1億円を超える企業は、この特例を利用できません。
また、交際費等は原則として、損金計上できません。しかし、資本金が1億円以下の企業は、年間800万円まで交際費等を損金として計上できます。
これらの優遇税制は、中小企業の事業活動を支援するための重要な制度です。資本金を増やすことで、これらの優遇税制が受けられなくなるのは、中小企業にとって大きなデメリットと言えます。
資本金が税金に与える影響は少なくありません。設立時の資本金額にお悩みの方は、ぜひ当事務所にお気軽にお問い合わせください。
資本金を決めるポイント
会社を設立する際、資本金の額をどう設定するかは重要です。具体的には、以下のポイントを押さえるといいでしょう。
・許認可が受けられる資本金を確保する
・創業融資は自己資金の3倍が目安となる
・節税を意識するなら1,000万円未満にする
・運転資金の3ヶ月分を目安にする
・銀行口座を開設するなら100万円以上にする
資本金は会社の信用度や資金調達のしやすさにも影響を与えます。適切な金額を設定することで、事業の成功につなげることが可能です。ここでは資本金を決めるポイントについて解説します。
許認可が受けられる資本金を確保する
事業を始めるにあたって許認可が必要な業種の場合、法律で定められた最低資本金が決められていることがあります。必要な資本金を満たしていないと、事業を始める前に許認可が下りず、計画が遅れてしまうかもしれません。
金額を満たしていないと事業を正式に開始できず、ビジネスチャンスを逃してしまうことも考えられます。参入しようとしている業種がどのような資本金要件などを持っているかを事前に確認し、それに見合った資本金を用意することが大切です。
創業融資は自己資金の3倍が目安となる
新しく事業を始める際に、金融機関から融資を受けることを考えている場合、自己資金の額が大きなポイントとなります。一般的に、創業融資では自己資金の3倍程度までの融資が可能と言われています。自己資金が多ければ多いほど、融資額も増える傾向です。
これは、金融機関が事業のリスクを評価する際に、自己資金の投入額を重視するためです。自己資金が多いことは、それだけ事業に対して真剣であり、リスクを共有していると判断されます。
例えば、自己資金が300万円ある場合、融資として900万円を受けられる可能性があります。事業の初期費用や運転資金に余裕を持たせることができ、経営の安定につながるでしょう。
融資を受けて事業を拡大したいと考えている場合は、資本金としてできるだけ多くの自己資金を投入することが効果的です。
関連記事:法人の銀行融資の種類と特徴は?審査に通らない理由を解説
節税を意識するなら1,000万円未満にする
資本金を1,000万円以上にすると、設立時から消費税の納税義務があります。また1,000万円を超えると、均等割の負担も増えます。節税を意識する場合は、資本金を1,000万円未満に抑えることで、消費税や均等割の負担を軽減することが可能です。
また、節税を意識する場合、会社設立前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。税理士は複数いますが、税理士によって得意不得意があります。適当に探すのではなく、自社にあった税理士を探しましょう。
以下の記事では、自社にあった税理士の探し方を解説しています。税理士を探す際には、参考にしてください。
関連記事:自社にあった税理士の探し方は?気をつけることを税理士目線で解説
運転資金の3ヶ月分を目安にする
事業を安定的に運営するためには、十分な運転資金を確保しておくことが大切です。一般的には、月々の固定費や変動費の合計額の3ヶ月分から6ヶ月分の運転資金が必要と言われています。
運転資金に余裕があれば、売上が計画通りに上がらない場合でも、当面の支出をカバーできます。
新規事業では、予期せぬ出費や収入の遅れが発生することは珍しくありません。運転資金に余裕がないと、支払いが滞り、取引先や従業員との信頼関係に悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば、月々の支出が100万円の場合、少なくとも300万円の運転資金を用意しておくことで、経営の安定性を高めることができます。事業計画を立てる際には、実際の支出をしっかりと把握し、それに見合った資本金を設定することが大切です。
関連記事:運転資金の融資が受けられる金融機関は?資金不足を解消する方法を解説
銀行口座を開設するなら100万円以上にする
会社の信用力を確保するためにも、資本金は100万円以上にしておくことをおすすめします。資本金が100万円未満の場合、金融機関によっては口座開設ができない可能性があります。
資本金が少ない会社は、不審な会社と判断されることが多いためです。また、取引先からも、資本金が少ない会社は、信用力が低いと見られる可能性があります。取引先との信頼関係を築くためにも、資本金は100万円以上にしておく方が良いでしょう。
資本金の悩みは気軽に相談を!
中小企業の資本金は、300万円から500万円未満の企業が多いです。事業を始めるための初期費用や運転資金として、必要最低限の金額を確保できる範囲とも言えます。
しかし、実際に必要な資本金は、業種や事業規模、将来の展望によって大きく異なります。石黒税理士事務所では、税務だけでなく創業設立する際に発生する各種手続きのサポートをしています。
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