合同会社から株式会社への変更は自分でできる?
合同会社から株式会社への変更は、自分でも手続きを進めることは可能です。ただし、必要な書類や手続きが多く、少しでも不備があると思うように進みません。
まず、正しい流れを把握して、丁寧に進めることが大切です。
自分で手続きを進める場合の流れ
合同会社から株式会社に変更するには、次のようなステップで手続きを行います。
ステップ1.組織変更計画書を作成する
まず行うのは「組織変更計画書」の作成です。これは、合同会社が株式会社になるにあたって、今後の会社の姿を示す設計図のようなものです。記載すべき事項の概要は次のとおりです。
・株式会社になった後の商号(会社名)
・株式会社としての事業目的
・本店所在地
・発行可能株式総数
・定款で定めるその他の事項(例えば取締役の任期など)
・株式会社の役員(取締役・監査役)の氏名
・合同会社の社員が取得する株式の内容(種類・数など)
・金銭などを交付する場合は、その額や算定方法
・組織変更の効力が発生する日
ステップ2.全社員(出資者)からの同意を得る
組織変更計画書を作成したら、合同会社の全社員からの同意が必要になります。これは会社法で定められており、1人でも反対すると組織変更はできません。
社員が複数いる場合は、「書面での同意書」を取り交わすのが確実です。なお、効力発生日の前日までに同意を得る必要があるので、早めの調整をおすすめします。
ステップ3.債権者保護手続きを行う
次に行うのが、債権者保護手続きです。会社の取引先や金融機関など「債権者」がいる場合、その人たちの権利を守るため、会社は組織変更することを事前に知らせる義務があります。
債権者保護手続きには一般的には「官報公告」と「個別通知」の2つの方法があります。
官報公告・・・全国版の公的新聞「官報」に、組織変更の旨を掲載します。
個別通知・・・債権者がいる場合、その相手に個別に手紙などで通知します。
債権者がいない場合でも、官報公告は必須です。公告期間は最低1ヶ月確保する必要があります。
ステップ4.組織変更の効力発生日を迎える
全社員の同意が得られ、債権者保護手続きも完了したら、組織変更計画書で定めた「効力発生日」に株式会社への変更が正式に成立します。この日をもって、合同会社は解散し、株式会社として生まれ変わるというわけです。
ステップ5.登記申請を行う(効力発生日から2週間以内)
株式会社としての効力が発生したら、登記申請を忘れずに行いましょう。申請する内容は「株式会社の設立登記」と「合同会社の解散登記」です。これらは効力発生日から2週間以内に、管轄の法務局に申請する必要があります。
提出書類の例
・組織変更計画書
・全社員の同意書
・登記申請書(設立・解散)
・定款
・官報公告のコピー
・登録免許税の納付書 など
手続きにかかる期間は、およそ2〜3ヶ月程度を見込んでおくと安心です。特に「官報公告」に1ヶ月かかるため、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。
複雑な手続きのため専門家への依頼が一般的
合同会社から株式会社への変更は、法的な手続きや書類作成が多く、専門的な知識が求められます。特に、公告のタイミングや登記申請の際に不備があると、手続きがやり直しになってしまうこともあります。
そのため、多くの方が税理士や司法書士などの専門家に依頼して進めるのが一般的です。特に法人の変更に伴い、税務上の対応も必要になることがあるため、税理士のサポートは心強い味方になります。
できるだけスムーズに、確実に株式会社へ変更したい方は、創業支援などの実績が豊富な石黒健太税理士事務所にぜひご相談ください。あなたの会社に合った最適な進め方をご提案し、丁寧にサポートいたします。
合同会社から株式会社に変更するメリット
合同会社は設立しやすく、コストも安いことから、個人事業主や小規模ビジネスに人気のある会社形態です。一方で、事業の拡大や対外的な信頼を求める場合は、株式会社へ変更することに大きなメリットがあります。
ここでは、合同会社から株式会社に変更する代表的な3つのメリットを見ていきましょう。
社会的な信頼性の向上が期待できる
株式会社という形態は、日本でもっとも広く知られている会社の形です。上場企業も株式会社なので、「株式会社=しっかりした会社」というイメージを持たれやすいです。
そのため、取引先や銀行などの第三者からの信頼を得やすくなります。実際に、合同会社では取引に慎重になる企業も、株式会社になるとスムーズに契約できるようになるケースもあります。
株式発行による資金調達ができる
株式会社では「株式」を発行できるため、資金調達の選択肢が広がります。これにより、事業拡大のための資金を外部から集めやすくなります。
一方、合同会社では出資者が経営者を兼ねるスタイルが基本なので、出資者を増やすと経営権にも影響が出やすく、株式会社に比べて資金調達の自由度が低いです。
株式譲渡による事業承継ができる
株式会社では、株式を譲ることで経営権を他者に引き継ぐことができます。つまり、「株を誰にどのくらい渡すか」で、会社の承継や経営のコントロールが柔軟にできます。これが、事業承継を考えるうえで非常に便利な仕組みです。
一方、合同会社では「出資比率=経営権」となるため、出資者の変更は会社の根本的な体制の見直しに直結します。定款で社員全員の合意が必要となっているケースも珍しくありません。
定款変更が必要になったり、登記手続きも複雑になったりするため、スムーズな事業承継には不向きといえます。
特に、家族や第三者に会社を引き継ぎたい場合、株式会社のほうが柔軟に対応できるため、将来のことを考えると合同会社から株式会社へ変更するのは大きなメリットになります。
関連記事:合同会社はやめとけと言われる理由は?トラブル例と失敗しないための対策
合同会社から株式会社に変更するデメリット
合同会社から株式会社に変更することで得られるメリットは多いですが、一方でいくつかのデメリットや注意点もあります。
ここでは、合同会社から株式会社に変更する際に、特に気をつけたい3つのポイントについて説明します。
組織変更に手間と費用がかかる
会社の形態を変更するには、「組織変更」という手続きを行う必要があります。この手続きには、法的な書類作成、株主総会の開催、定款の作り直しなどが含まれ、専門知識が求められます。
また、登録免許税や公証人への費用などもかかり、手続き全体に10万円〜20万円ほどの費用が発生することも珍しくありません。外部の専門家(司法書士や行政書士)に依頼すると、その分の報酬も加わります。
決算公告が義務付けられる
決算公告とは、貸借対照表などの財務情報を官報や新聞、インターネットなどで公開することです。決算公告は会社法で定められており、怠ると罰則を受ける可能性もあります。
株式会社になると、毎年の決算内容を公告する義務があります。これは会社の財務状況を公開して、社会的な透明性を保つための仕組みです。
一方、合同会社には決算公告の義務がありません。そのため、事務手続きも少なく、コストも抑えられます。
株式会社にする場合は、決算公告の義務も視野に入れておくことが大切です。
役員の重任登記が必要になる
株式会社の取締役は、原則として「2年ごと」に任期がきます(非公開会社でも最長10年)。この任期が切れるたびに、「役員の重任登記(任期の更新手続き)」を行う必要があり、そのたびに登録免許税などの費用が発生します。
一方、合同会社には役員の任期に関する制限がありません。つまり、一度就任すれば、再任や登記の必要がなく、継続的に経営が可能です。
株式会社にすると、役員の重任登記のように定期的な事務処理が増えるため、特に人手が少ない会社や一人で経営している場合は、少し負担に感じることもあるかもしれません。
株式会社への変更は、信頼性や将来の発展性が高まる反面、事務負担やコストが増える面もあります。こちらに合同会社と株式会社の違いをより詳しく書いた記事がありますので、あわせてお読みください。
関連記事:合同会社と株式会社の違いは?向いている会社形態と会社設立で失敗しないためのポイント
参考:法務省「役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です」
合同会社から株式会社への変更を検討するタイミング
合同会社は手続きが簡単でコストも低いため、起業時に選ばれることが多い会社形態です。ただ、事業が大きくなってくると、株式会社に変更したほうが良い場面も出てきます。
ここでは、合同会社から株式会社に変更を検討すべき「タイミング」について解説します。
スムーズに事業承継をしたいとき
今は自分で経営しているけれど、将来的には家族や社員、第三者に会社を引き継ぎたいというときは、株式会社への変更を考えるタイミングです。
株式会社では「株式」を使って、所有権を柔軟に引き継ぐことができます。例えば、子どもに株を譲れば自然と所有権も移ります。一方、合同会社では出資比率と経営権が密接に結びついていて、事業承継がスムーズにいかないこともあります。
将来の引き継ぎをスムーズに行いたいなら、早めに株式会社へ変更するのがおすすめです。
金融機関や投資家からの出資を受けたいとき
事業を拡大したいと考えたとき、外部から資金を集める場面が出てくるでしょう。例えば、銀行融資だけでなく、投資家から出資を受けたり、パートナー企業に出資してもらうようなケースです。
株式会社では「株式」を発行することで、柔軟に資金調達が可能になります。投資家も、株式を通じてリターンが見込めるので、出資しやすいでしょう。一方、合同会社では株式が存在しないため、出資の自由度が低く、出資者が経営にも関与する形になってしまいがちです。
外部資金の力を借りて大きく飛躍したいと考えたら、株式会社に変えるタイミングでと言えます。
将来的に上場を考えているとき
将来的に会社を成長させて、株式上場を目指すのであれば、合同会社ではなく株式会社にする必要があります。その理由は、日本の証券取引所では、合同会社の上場は認められていないからです。
また、上場準備には、社内体制や財務の透明性、ガバナンスなど、株式会社であることが前提のステップが多く含まれます。
「まだ先の話」と思っていても、上場を少しでも視野に入れているなら、早い段階で株式会社にしておくことで、準備がスムーズになります。
合同会社から株式会社への組織変更する費用の目安
合同会社から株式会社へ変更するには「組織変更」という法的な手続きが必要です。このとき、いくらくらいお金がかかるのか?というのは多くの方が気になるポイントです。
ここでは、組織変更にかかる費用の内訳と、そのおおよその金額についてわかりやすくご紹介します。
【自分で手続きする場合にかかる費用の目安】
項目 |
費用の目安 |
登録免許税(設立・解散) |
6万円(各3万円) |
官報公告の掲載料 |
約3.5万円 |
その他(印紙、郵送代等) |
数千円 |
合計 |
約10万円 |
①登録免許税(約6万円)
まず大きな費用として発生するのが、法務局に支払う登録免許税です。これは会社の登記(変更・設立・解散など)に必要な税金で、次の2つがかかります。
・株式会社の設立登記・・・合同会社からの組織変更では3万円
・合同会社の解散登記・・・3万円
合計で6万円程度が目安です。
②官報公告費用(約3万5,000円)
組織変更をする際には、債権者保護のための公告を官報(政府の広報紙)に掲載しなければなりません。この掲載には費用がかかり、文字数によって多少変動しますが、だいたい3万5,000円前後が一般的です。
③印紙代や郵送代(数百円〜数千円)
次のような小さな費用も積み重なります。
・書類に貼る収入印紙代
・書類の郵送代
・書類コピー代や交通費 など
④必要に応じてかかるその他の費用
専門家(司法書士・行政書士)へ依頼した場合の報酬は、10万円〜20万円程度が相場になります。自分で行えばコストは抑えられますが、専門家に任せると手続きはスムーズです。
参考:国税庁「登録免許税の税額表」
組織変更のお悩みはお気軽にご相談を!
合同会社から株式会社への変更は、信頼性の向上や資金調達のしやすさなど多くのメリットがある一方で、費用や手続きの手間もかかります。将来の事業承継や上場、外部からの出資を視野に入れている場合は、早めに検討することでスムーズな移行が可能です。
ただし、会社の成長段階や目的によって最適なタイミングは異なります。「うちの場合はどうだろう?」とお悩みの方は、専門家に相談するのが安心です。会社形態の見直しをご検討中の方は、ぜひ石黒健太税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。