法人成り

一人親方が法人化する年収の目安は?インボイス制度対策の法人化は後悔する理由

「一人親方だけど、そろそろ法人化を考えてもよいだろうか?」そんな悩みを抱えていませんか?

 

最近ではインボイス制度の影響もあり、法人化を検討する個人事業主が増えています。しかしながら、法人化には節税や信用力アップといったメリットがある一方で、コストや手間が増えるなどのデメリットもあります。実際に「法人化して失敗した」という声も少なくありません。

 

大切なのは、今の自分にとって、本当に法人化が必要かどうかを見極めること。

 

本記事では、法人化の年収の目安から、よくある後悔の理由、メリット・デメリット、失敗しないための判断ポイントまで、わかりやすく解説します。法人化するかどうかの判断に役立ちますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

目次

一人親方が法人化する年収の目安は?

まず、一人親方が「そろそろ法人化したほうがいいのかな?」と考え始めるのは、事業が軌道に乗り始めて収入が増えてきた時でしょう。法人化にはメリットもデメリットもありますが、「年収がどれくらいになったら法人化を検討するべきか」という基準を知っておくことは大切です。

 

ここでは、2つの視点から、法人化の目安となる年収についてご説明します。

節税効果が期待できる課税所得900万円

始めに「年収と所得は違う」ということを押さえておきましょう。

 

年収:お客さまから受け取る総額(売上)
所得:年収から経費などを引いた、実際のもうけ

 

例えば、年収が1,500万円あっても、経費を1,000万円使っていたら、所得(もうけ)は500万円になります。そして、税金は所得から計算されます。課税所得が500万円の場合、所得税は以下の計算です。

 

500万円×20%ー427,500=572,500

 

個人事業主の所得税は「累進課税」といって、所得が多くなるほど税率が高くなります(最高税率45%)。個人事業主の場合、課税所得が900万円を超えると、所得税率は33%になります。課税所得が900万円の場合、所得税は以下の計算です。

 

900万円×33%ー1,536,000=1,434,000

 

しかし法人化すると、法人税率は課税所得800万円までは15%で800万円を超える分は23.20%になります(中小法人の場合)。所得が900万円の法人税は、以下の計算です。

 

800万円×15%+100万円×23.20%=1,432,000

 

課税所得900万円の税金を比べると、法人化したほうが個人よりも税金が抑えられることがわかります。そのため、課税所得が900万円を超えてきたあたりが、法人化の「節税メリット」が大きくなるタイミングなのです。

 

参考:国税庁「No.2260 所得税の税率

参考:国税庁「No.5759 法人税の税率

消費税の納税義務が影響する1,000万円

もうひとつのポイントは、消費税の納税義務です。消費税は、課税売上高(年収)が1,000万円を超えると、2年後から消費税を納める必要が出てきます。

 

例えば、あなたの年収が今年1,200万円だった場合、2年後は課税事業者になり、再来年から消費税を納める義務が発生します。消費税は高額となり、資金繰りに影響するため注意しましょう。

 

法人化をすることで、節税の選択肢が広がるだけでなく、消費税の納税タイミングをコントロールできるようになります。法人成りにより消費税の免除期間がどうなるのか気になる方はこちらの記事を合わせてお読みください。

 

関連記事:法人成りすると消費税の免除がなくなる?免除期間を長くするポイントと個人事業主への影響

 

また、2023年にスタートしたインボイス制度の影響で、取引先から「インボイス登録していないと困る」と言われてしまうケースも増えています。法人化して課税事業者になることで、ビジネス上の不利を避けることもできます。

 

ただし、法人化すればすべてが良いというわけではありません。設立や維持にコストもかかりますし、事務手続きも増えます。

 

「うちの場合は法人化した方が得なのか?」「まだ早いのか?」と悩んでいる方は、一度専門家に相談するのがおすすめです。ご相談は、石黒健太税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

インボイス制度対策の法人化が後悔すると言われる理由

最近、「インボイス制度に対応するためには法人化しないといけないの?」と不安に感じている一人親方の方が増えています。

 

実は、インボイス(=適格請求書)を発行するために法人化する必要はありません。インボイス制度では、消費税の課税事業者として税務署に登録すれば、インボイスを発行することができます。そしてインボイス発行事業者の登録は、個人事業主でも可能なのです。

 

法人化には思っている以上にお金と手間がかかります。

 

例えば、法人を設立するには登記費用がかかり、その後は毎月の経理や年1回の決算、法人税の申告など、事務手続きが一気に複雑になります。さらに、法人になると社会保険への加入が義務になるケースもあり、これもコストアップにつながります。

 

節税のつもりで法人化したのに、売上や経費のバランスによってはかえって税金が高くなることもあり得るのです。事前にしっかりシミュレーションしておかないと、「こんなはずじゃなかった」と後悔してしまうケースも少なくありません。

 

インボイスに対応したいだけであれば、法人化せずに、個人事業主のままインボイス発行事業者として登録するだけで済みます。法人化は、節税や信用アップ、事業の拡大など「明確な目的」がある場合に初めて検討しましょう。

 

インボイス制度によって消費税に与える影響を知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。

 

関連記事:インボイス制度後の個人からの仕入れはどうなる?消費税に与える影響と対策を解説

一人親方が法人化するメリット

一人親方が法人化すると、手間や費用がかかるものの、それを上回るメリットもたくさんあります。ここでは、一人親方が法人化することで得られる代表的なメリットをご紹介します。

決算期を自由に設定できる

個人事業主は、会計年度の締めが「毎年12月末」と決まっています。どんなに忙しい年末でも、必ずこのタイミングで帳簿を締めて確定申告の準備をする必要があります。

 

一方、法人化すると決算月を自由に選ぶことが可能です。例えば、仕事が落ち着いている時期に決算を設定すれば、余裕を持って書類を準備できるため、業務負担を軽くすることができます。

経営者が社会保険料に加入できる

個人事業主の場合、健康保険は「国民健康保険」、年金は「国民年金」に加入します。これに対し、法人を設立して代表者になると、「健康保険(協会けんぽなど)」と「厚生年金」に加入することになります。

 

厚生年金は将来の年金額が多くなりますし、社会保険に加入していれば病気やケガで働けなくなったときの保障も充実します。さらに、配偶者や子どもを扶養に入れることで保険料の負担が軽くなるかもしれません。

人材が確保しやすくなる

法人化すると、会社としての信頼感が生まれます。求人を出したときにも、「法人の会社で働けるなら安心」という理由で、応募者が増える傾向です。

 

また、法人は社会保険への加入が義務づけられているため、「正社員として安心して働きたい」という人材を集めやすくなります。これから事業を広げていきたいと考えている一人親方にとって、人を確保しやすくなる環境が整うのは大きなメリットと言えます。

資金調達の選択肢が増える

個人事業主が融資を受ける場合、多くは「個人の信用」に基づいてお金を借りる形になります。そのため、借入額に限界があったり、審査が厳しくなるかもしれません。

 

一方、法人になると、法人名義での融資を受けることが可能です。法人は「会社」としての実績が評価され、金融機関からの信頼も得やすくなります。また、法人のほうが対象になる助成金や補助金の幅が広がるという点でも、資金調達の面で有利になります。

経費として認められる範囲が個人事業主より広がる

個人事業主の場合、個人事業主の生命保険料や寄付金などは経費として認められません。例えば、家族に手伝ってもらっても、給与として計上するには細かい条件がありますし、車や家賃の一部も事業と家事の按分になります。

 

法人になると、役員報酬や福利厚生費、家族への給与(仕事の対価として支払う場合)も経費として認められるようになります。正しく処理すれば、節税につながる経費の幅がぐっと広がるのが法人化の大きな魅力です。

一人親方が法人化するデメリット

法人化には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。事前にその内容をしっかりと理解しておかないと、「こんなはずじゃなかった」と後悔してしまうこともあります。

 

ここでは、法人化によって生じる代表的なデメリットをわかりやすく解説します。

設立コストがかかる

法人を設立する際には、個人事業のように「無料で開業届を出すだけ」というわけにはいかず、初期費用が発生します。株式会社を設立する場合、定款の認証手数料に1.5~5万円、登録免許税が15万円かかり、その他の費用を含めると、合計250,000円〜450,000円の費用がかかるのが一般的です。

 

また、設立時には税理士や司法書士などの専門家に依頼するケースも多く、その場合はさらに報酬が加わるため、初期コストはしっかり見積もっておく必要があります。

 

関連記事:株式会社の設立費用の目安と内訳は?資本金1円でも節約にならない理由と節約する方法を解説

赤字でも均等割の納付義務がある

法人には、たとえ赤字であっても「均等割」という住民税の納付義務があります。これは会社の所得に関係なく、「法人であること」に対して課されるもので、最低でも年間7万円程度の支払いが発生します。

 

個人事業主であれば、赤字なら税金がかからないですが、法人の場合は事業がうまくいっていない年でも、均等割が発生するという点に注意が必要です。

社会保険料の負担が増える

法人の代表者や従業員は、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する義務があります。これにより将来の保障が手厚くなる一方で、保険料の負担は増えます。

 

例えば、役員報酬を月30万円と設定した場合、毎月の社会保険料(会社負担分と本人負担分の合計)は9万円前後です。さらに、雇用した従業員の保険料も会社が半分負担しなければなりません。

 

「節税になるから法人化しよう」と安易に考えると、想定外の保険料負担に驚くことになります。以下の記事では、社会保険料の金額について解説しています。

 

関連記事:1人社長の社会保険料はいくら?具体的な計算方法と役員報酬8万円の社会保険料の金額

交際費に上限がある

法人が使える交際費には上限が設けられていて、例えば中小企業の場合、条件はありますが、年間800万円までが損金(経費)として認められるルールがあります。

 

一方、個人事業主には明確な上限がありません。常識の範囲内で「事業に必要な支出」として説明がつけば、柔軟に経費にできる点がメリットです。

 

ただし、どちらの場合も領収書の保管や帳簿への記載は必須で、なんでもかんでも経費にできるわけではないという点は共通しています。

 

参考:国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算

確定申告が複雑になる

法人になると、確定申告の内容がぐっと複雑になります。個人事業主の確定申告は、会計ソフトを使えば自力でも対応できる場合がありますが、法人では「法人税申告書」だけでも別表一から別表二十一まで様式の中から必要な書類を作らなくてはなりません。

 

法人税申告書は専門的な知識が求められるため、ほとんどの法人が税理士に依頼して申告しているのが現状です。法人化すると申告の手間や専門知識の必要性が格段に増し、税理士との契約がほぼ必須になるため、その分の費用も見込んでおく必要があります。

 

「本当に法人化すべきかどうか迷っている」
「自分の場合はどのくらい費用がかかるのか知りたい」

 

そんなときは、ぜひ石黒健太税理士事務所にご相談ください。あなたの状況に合わせて、最適なアドバイスを提供いたします。

 

関連記事:合同会社の決算は自分でできる?自分でするデメリットとスムーズにするやり方

一人親方が法人化に失敗しないためのポイント

一人親方が法人化することで節税や社会的信用などのメリットはありますが、安易な判断で進めると後悔することにもなりかねません。法人化を成功させるためには、次のポイントをしっかり押さえておくことが重要です。

 

・短期的な節税メリットだけでなく長期的な視点で判断する
・個人事業主のままでも対応できないか検討する
・法人化前後の税金と社会保険料をシミュレーションする
・設立後のランニングコストを把握する
・法人化が得意な専門家に相談する

 

順にみていきましょう。

短期的な節税メリットだけでなく長期的な視点で判断する

「税金が安くなるから」と、目先の節税効果だけを見て法人化を決めるのは危険です。法人になると、社会保険料の負担や運営コストも増えるため、長期的に見て本当に得なのかどうかを総合的に判断することが大切です。

 

特に収入が不安定な業種の場合、将来的に事業の規模が変わる可能性もあるため、数年先を見据えた判断が必要です。

個人事業主のままでも対応できないか検討する

インボイス制度や消費税の課税などを理由に法人化を検討するケースもありますが、必ずしも法人化しなければ対応できないわけではありません。

 

個人事業主のままでも「適格請求書発行事業者」として登録すればインボイスに対応できます。経費や帳簿の管理なども、今ではクラウド会計ソフトで簡単に対応できるようになっています。

 

法人化ありきで考えるのではなく、「本当に法人化が必要なのか?」を一度立ち止まって考えることが重要です。

 

関連記事:個人事業主はあえて法人化しない方がいい?節税にならないと言われる理由と法人化する年収の目安

法人化前後の税金と社会保険料をシミュレーションする

法人化することで所得税・住民税・消費税・法人税・社会保険料など、支払う税金や保険料の種類と金額が大きく変わります。法人化した場合と個人事業主のままの場合のシミュレーションを事前にしておくことがとても大切です。

 

年収や経費、役員報酬の設定によっても結果は大きく変わるため、自分に合った形を具体的に数字で比較しておくと、より納得のいく判断ができます。個人事業主と法人化する場合のシミュレーション結果については、以下の記事で解説しています。

 

関連記事:個人事業主と法人化はどっちが得?シミュレーション結果を解説

設立後のランニングコストを把握する

法人化すると、設立時だけでなく、運営していく中でも継続的に費用がかかる点を忘れてはいけません。例えば、税理士への顧問料や社会保険料の会社負担分、毎年の決算申告費用や法人住民税の均等割など、個人事業主のときにはなかった「固定費」が発生します。

 

これらをしっかりと見積もり、継続的に支払えるかどうかを確認してから法人化に踏み切りましょう。

法人化が得意な専門家に相談する

法人化を検討するときは、税金や保険、設立手続きなど専門的な知識が必要です。自分だけで判断せず、法人設立に強い税理士や行政書士などの専門家に相談するのが安心です。

 

専門家に相談すれば、節税のアドバイスはもちろん、設立後の資金繰りや経理体制の整備までサポートしてくれる場合もあります。失敗しない法人化のためにも、「信頼できるパートナー」を見つけておくことが成功のカギになります。

法人化のお悩みはお気軽にご相談を!

一人親方として働く中で、「そろそろ法人化したほうがいいのかな?」「でも自分に合っているのかわからない」と悩む方は少なくありません。

 

確かに法人化には、節税や社会的信用など多くのメリットがありますが、その一方で、設立コストや運営コスト、税金や保険料の負担増など、慎重に考えるべき点もたくさんあります。

 

だからこそ、「なんとなくお得そうだから」ではなく、あなた自身の収入やライフスタイル、将来の事業展開に合った選択が大切です。もし少しでも法人化に迷いや不安があるなら、一人で抱え込まず、まずは専門家に相談してみましょう。

石黒健太税理士事務所では、一人親方や個人事業主の法人化に関するご相談を無料で受付中です。丁寧にヒアリングを行い、あなたにとってベストな選択ができるよう、親身にサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

 

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