法人成り

年収500万で法人化するとどうなる?手取りが減る恐れがある理由と法人化が向いているケース

「そろそろ法人化した方が良いのだろうか」「年収500万円で法人化するのは早い?」事業での売上や所得が増えると、法人化が気になる方も多いでしょう。法人化のメリットには、節税対策がしやすいことや、社会的信用が得られやすいことなどが挙げられます。

 

しかし、会社運営には、様々なコストが発生します。年収500万円では、コストの負担によって、法人化のメリットを得られない可能性があるのも事実です。経営や事業で法人のメリットを活かしたいなら、法人化の適切なタイミングは知っておくべきでしょう。

 

本記事では、年収500万円で法人化するとどうなるのかを中心に解説します。法人化を検討するタイミングや、向いているケースも紹介するので、最後まで読めば、法人化の適切なタイミングが把握できるでしょう。

目次

年収500万で法人化するとどうなる?

法人と個人事業主では、設立方法や発生するコスト、事務作業など様々な違いがあります。そのため、個人事業主と同じ感覚を持って法人化すると、手間や支出の多さから後悔する恐れがあります。法人化を後悔しないためにも、法人のデメリットは理解しておきましょう。

 

ここからは、年収500万円で法人化すると起こり得るデメリットを中心に解説します。

手取りが減る恐れがある

法人化すると、個人事業主にはなかった、以下のコストが生じることになります。

 

・法人市・県民税の均等割

・役員や従業員の社会保険料

・税理士を雇ったときの報酬

 

法人市・県民税の均等割は、資本金の金額などを基準に算出する税金です。赤字であっても納付が必要で、最低7万円〜8万円ほどの負担が生じます。また、法人の場合、社会保険の加入が必須です。社会保険料は労使折半のため、従業員が増えるほど負担額も増加します。

 

法人化は、個人事業主よりも支出が多くなるため、これまでよりも手取りが減る恐れがあります。そのため、年収500万円のケースでは、比較的負担の少ない個人事業主の方が、得に感じるでしょう。

 

しかし、所得などが一定額を超えると、個人事業主よりも税金のコストが下がる、法人の方が得だと言えます。個人事業主が法人化を検討するタイミングについては、後述します。

 

関連記事:個人事業主はあえて法人化しない方がいい?節税にならないと言われる理由と法人化する年収の目安

個人に戻るには手間と費用が発生する

個人事業主が開業するときは、税務署などへの届出のみで手続きが完了します。しかし、法人の設立には、法務局での登記申請などに加えて、定款の作成や認証など様々な手続きが必要です。会社形態にもよりますが、設立にかかる費用は、10万円〜25万円が相場です。

 

また、法人は設立時だけでなく、解散の際にも費用と手間が発生します。中小企業の場合、解散にかかる費用は10万円以上が相場ですが、経営悪化などの理由で廃業を行うケースでは、解散費用を捻出できないことも珍しくありません。

 

法人から個人事業主に戻るのは簡単ではありません。設立後に後悔してからでは遅いため、将来の展望などを明確にした上で、法人化の選択が最適かどうか検討しましょう。以下の記事では、法人化を後悔するケースについて解説しています。

 

関連記事:法人化に後悔する5つのケースとは?法人化が後悔する人の特徴と対策

 

個人事業主が法人化を検討するタイミング

コストや事務手間などが多い法人ですが、税金面で見ると個人事業主よりも得になるケースがあります。具体的には、課税所得などが以下の金額を超えると、個人事業主よりも高い節税効果が得られるでしょう。

 

・課税所得900万円超

・課税売上高1,000万円超

 

個人事業主が法人化を検討するなら、これらのタイミングがおすすめです。理由について、くわしく解説します。

課税所得が900万円を超える

個人事業主が納める「所得税」と、法人が納める「法人税」は、どちらも所得に対して課せられる税金です。しかし、2つの税金は、適用される税率が異なります。それぞれの税率については以下の通りです。

 

【所得税率】

課税される所得金額

税率

控除額

1,000円 から 1,949,000円まで

5%

0円

1,950,000円 から 3,299,000円まで

10%

97,500円

3,300,000円 から 6,949,000円まで

20%

427,500円

6,950,000円 から 8,999,000円まで

23%

636,000円

9,000,000円 から 17,999,000円まで

33%

1,536,000円

18,000,000円 から 39,999,000円まで

40%

2,796,000円

40,000,000円 以上

45%

4,796,000円

(引用:国税庁「No.2260 所得税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)

 

【資本金1億円以下の普通法人の法人税率】

所得金額

税率

年間800万円以下の部分

15%

年間800万円超の部分

23.2%

(参考:国税庁「No.5759 法人税の税率」をもとに作成)

 

表からもわかる通り、所得が900万円を超えると所得税では33%以上の負担が生じます。一方、法人税の最高税率は23.2%です。つまり、900万円を超えるケースでは、所得税よりも法人税の方が、税金の負担額が少なくなるのです。

 

所得税は、所得が高いほど税率が上がる「累進課税制度」が採られています。そのため、所得が増えるほど多額の税金負担が生じるのがデメリットと言えます。税金面で得したい方は、課税所得900万円を基準にして、法人化を検討すると良いでしょう。

課税売上高が1,000万円を超える

一般的には2年前の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が発生します。課税売上高の基準は、個人であっても法人であっても基本的には変わりません。しかし、課税売上高が1,000万円を超える個人が法人化した場合、最大2年間は消費税が免除される可能性があります。

 

免除される理由としては、法律上、個人と法人が別人と見なされるからです。つまり、個人事業主での売上があったとしても、法人の消費税には影響を与えないのです。消費税を納付している個人事業主の場合、法人化によって最大2年間は消費税の負担が減らせるのはメリットでしょう。

 

ただし、適格請求書発行事業者など、特定のケースでは、消費税が免除されない恐れがあります。消費税の制度は複雑なため、専門家への相談がおすすめです。

 

法人化でお悩みの方は、ぜひ当事務所へご相談ください。税金の負担や手取り額などを踏まえたアドバイスが可能です。ご相談はお電話でもできますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

 

関連記事:法人成りすると消費税の免除がなくなる?免除期間を長くするポイントと個人事業主への影響

 

年収500万で法人化が向いているケース

法人化は、社会保険料などの負担が多く、損に感じる方も多いでしょう。しかし、法人化のメリットやデメリットは、コストだけでは測れません。法人化は、事業の継続・拡大に良い影響を与えることも事実です。

 

ここからは、年収500万円でも法人化が向いているケースを7つ紹介します。

ケース1:不動産投資を検討している

個人所有の不動産について相続が発生すると、相続人に相続税が課税されます。また、不動産の名義を変える手続きとして、法務局で相続登記の申請も行わなければなりません。相続人が遠方にいたり、複数人いたりする場合は、手続きが複雑化することも珍しくありません。

 

一方、法人名義の不動産は、個人の財産ではないため、相続税の対象外になります。ただし、株式は相続財産の対象です。代表者が死亡しても不動産に対する相続は発生しないため、相続人に税金や手続きの負担が生じないのはメリットと言えるでしょう。

 

その他にも、法人化には最大10年間の赤字繰り越しができるなどのメリットがあります。個人事業主よりも赤字繰越期間が長いため、不動産投資が軌道に乗り、黒字化できたタイミングで相殺するなど、より効果の高い節税対策ができる点も法人化の魅力と言えます。

ケース2:取引先から法人化を求められている

個人ではなく法人と取引したいなど、取引先から法人化を要請されているときは、法人化が向いています。法人化によって取引先から信頼が得られれば、規模の大きい仕事などを受注できる可能性があるためです。

 

また、個人事業主や法人などの選択肢は、あくまで目安に過ぎません。事業を行う上で大切なのは、事業の継続や拡大を優先することです。取引がなくなれば、売上がゼロになる可能性もあるため、法人化を求められている場合は、早めに法人設立の検討を行いましょう。

ケース3:有限責任にしたい

個人事業主と法人では、事業に関する責任の範囲が異なります。個人事業主の責任範囲は、「無限責任」です。無限責任の場合、事業における負債などは全額弁済しなければならないため、事業に失敗したときのリスクが高いと言えます。

 

一方、株式会社や合同会社などの法人は、「有限責任」です。有限責任の場合、出資額を超えた金額の弁済などが生じないため、比較的安心して資金調達しやすいのがメリットと言えます。リスクを抑えて事業を行いたい場合は、有限責任である法人がおすすめです。

 

以下の記事では、合同会社と個人事業主の違いを徹底解説しています。法人化を検討している方は、参考になる内容でしょう。

 

関連記事:合同会社と個人事業主の違いは?兼任する注意点とスムーズに切り替える方法

ケース4:社会的信用を高めたい

法人は、会社の情報が登記簿に掲載されることや、会社法を遵守した運営が求められるなどの理由から、個人よりも社会的信用が高いとされています。社会的信用が得られれば、融資や取引の場で有利に働く可能性があるため、スムーズな事業活動が期待できるでしょう。

 

また、信用力が活かされるのは、事業活動だけではありません。求人募集の場面では、優秀な人材が集まりやすいなどのメリットが得られます。社会的な信用力は、事業の拡大に欠かせない要素です。個人事業主よりも信用力を高めたいなら法人化がおすすめです。

ケース5:社会保険に加入したい

個人事業主の場合、社会保険や厚生年金に加入するには、従業員が常時5人以上いることが原則です。また、個人事業主本人は社会保険に加入できません。しかし、法人の場合、従業員の人数に限らず、社会保険や厚生年金への加入が必須となります。

 

社会保険に加入できれば、病気や障害などが生じたときに給付などの保証が受けられます。また、厚生年金保険料の支払いによって、将来受け取る年金額が増えるため、老後の不安などが解消されやすくなるのもメリットでしょう。万が一のときに備えておきたい方は、社会保険に加入できる法人化が向いています。

 

ただし、社会保険の加入によって、社会保険料の負担が増えるので注意が必要です。以下の記事では、1人社長で発生する社会保険料の金額や、計算方法を解説しています。

 

関連記事:1人社長の社会保険料はいくら?具体的な計算方法と役員報酬8万円の社会保険料の金額

ケース6:来年以降事業が大幅に拡大する予定である

商品の顧客を新たな地域に拡大したり、事業を他者から買収(M&A)したりするなど、来期移行に大幅に事業が拡大する場合は、法人化がおすすめです。事業の拡大は、所得増加をもたらすため、個人事業主のままでは、高額な所得税を負担することになります。

 

前述した通り、課税所得が900万円を超えるケースでは、所得税よりも法人税の方が、税金面で得となる可能性が高いです。過去に遡って法人化することはできないため、大幅に事業を拡大する予定であれば、早い段階で法人設立を検討しておきましょう。

ケース7:事業所得以外に給与所得がある

所得税は、事業所得とそれ以外の所得を合計した上で税金額を算出しています。そのため、事業所得と給与所得があるケースでは、合計すると所得が高額になり、法人税よりも高い税率が適用される恐れがあります。

 

所得金額によっては、法人化して法人税を支払う方が、負担する税金が安く抑えられる可能性があるので知っておきましょう。ただし、全ての人にあてはまるわけではないので注意が必要です。法人化が得になるかどうかは、扶養家族などの個々の状況に合わせたシミュレーションを行った上で判断しましょう。

 

当事務所では、個々の状況に応じたシミュレーションが可能です。法人化と個人事業主の選択でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。ご相談はお電話でも受け付けております

 

法人化に失敗しないためのポイント

法人化で失敗を感じる理由には、コストの問題や理想の経営ができないことなどが挙げられます。法人化に踏み切った後に、「やっぱり個人事業主の方が良かった」と感じる事業者が多いのも事実です。法人化を後悔しないためにも以下のポイントは押さえておきましょう。

 

・法人化する目的をはっきりする

・法人化後に発生するランニングコストを把握する

・事前にしっかりとしたシミュレーションをする

・税金と資本金の関係を理解する

・法人化が得意な専門家に相談する

 

前述した通り、法人から個人事業主に戻るのは、手間と費用がかかります。失敗を避けるためにも、これから紹介する内容はしっかり理解しておきましょう。

法人化する目的をはっきりする

法人化の目的がはっきりしていない場合、「事業運営にブレが生じる」「法人の強みを活かした経営ができない」などのデメリットが生じます。法人化の判断は、今後の経営戦略にも影響するため、目的が曖昧な場合は明確にしておきましょう。

 

個人事業主が法人化する目的には、以下が挙げられます。

 

・税制上の優遇措置を利用したい

・社会的信用を高めて高額な融資や取引を行いたい

・相続や事業承継の対策として法人化したい

 

また、法人化の目的によっては、会社形態の選択も重要です。法人には、株式会社や合同会社などの種類がありますが、設立手続きや意思決定の方法など、様々な違いがあります。安易に決めると、後の経営に影響を及ぼすため、会社形態の違いも把握しておきましょう。

 

関連記事:合同会社と株式会社の違いは?向いている会社形態と会社設立で失敗しないためのポイント

法人化後に発生するランニングコストを把握する

会社運営に必要なコストが把握できていない場合、資金繰りの悪化や、赤字経営を招く恐れがあります。法人化は、設立がゴールではありません。会社の経営を安定化させ、事業を継続していくためにも、運営に必要なコストは把握しておきましょう。

 

法人化後に発生するランニングコストには、以下が挙げられます。

 

・法人税などの税金

・会社負担分の社会保険料

・税理士顧問料

・役員の就任や退任にかかる登記費用 

・決算公告費用 (株式会社のみ)

・株主総会の開催費用(株式会社のみ)

 

株式会社では、毎年決算公告を行わなけばなりません。決算公告の費用は、掲載方法や会社規模によって異なりますが、最低6万円〜7万円の費用が必要です。また、株主総会の開催は、費用だけでなく手間がかかるのも事実です。会社運営には、費用や手間がかかることを理解しておきましょう。

事前にしっかりとしたシミュレーションをする

法人化について調べていると、「法人は税制上の優遇が多いから得になる」といった内容を見かけることも多いでしょう。しかし、これは全ての人にあてはまるわけではありません。個人の状況によっては、法人化が個人事業主よりも支払う税金や社会保険料などが多くなり、損する可能性があるからです。

 

そのため、本当に法人化が得になるかどうかは、自分の所得などからシミュレーションを行い、比較することが大切です。以下の記事では、個人事業主が法人化したときの手取りをシミュレーションしています。比較・検討するときの参考になるので、ぜひご覧ください。

 

関連記事:個人事業主と法人化はどっちが得?シミュレーション結果を解説

税金と資本金の関係を理解する

会社設立時に用意する資本金は、運転資金などの事業運営に充てることができます。資本金が高額なほど、経営が有利になると考える方も多いでしょう。しかし、資本金が高額な場合、税金の負担が増加する恐れがあるので注意が必要です。

 

資本金が関係する税金には、前述した「法人市・県民税」と「消費税」などが挙げられます。どちらの税金も、資本金額の増加(増資)に伴い、税金の負担が増えてしまうのです。以下の記事では、資本金の金額と税金の関係、資本金額の決め方を紹介しています。

 

関連記事:自社にあった資本金の決め方は?一時的にあればいい考えのリスクと使うとどうなるかについて解説

法人化が得意な専門家に相談する

法人化が得意な専門家に相談することで、事業に専念しやすくなるなどのメリットが得られます。会社の成長には、スピード感が大切です。手続きなどに時間を費やし過ぎた場合、法人化に最適なタイミングを逃してしまう恐れがあるため、わからないことは専門家に相談しましょう。

 

また、法人化では、設立手続きだけでなく、税務署などへの書類提出や融資など、税金とお金に関する準備が必要です。これらの準備がしっかりできていないケースでは、「税務署からペナルティを科せられる」「資金が枯渇する」など、致命的な状況を招く可能性があります。

 

税金や資金調達などの専門家なら「税理士」が適任と言えます。税理士への相談によって、融資を通過するための具体策や節税対策などのアドバイスが得られるため、経営の安定化を図れます。以下の記事では、税理士選びのポイントなどを紹介しています。

関連記事:税理士への不満ランキング1位はコミュニケーション!合わない税理士に依頼するデメリット

 

法人化のお悩みはお気軽にご相談を!

法人化は、社会的信用の向上によって、事業が飛躍的に成長する可能性を秘めています。しかし、所得額などによっては、法人化によって手取りが減る恐れがあるのも事実です。法人化を後悔しないためにも、目的を明確にしたり、シミュレーションしたりするなどの対策を行いましょう。


法人化についてお悩みの方は、ぜひ当事務所へご相談ください。創業支援経験を持つスタッフが、手取りなどのシミュレーションや、法人化のサポートを行っています。ご相談はお電話でも可能です。まずはお気軽にご相談ください。

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