簡易課税制度選択届出書の提出期限はいつまで?
消費税の計算方法には、「原則課税」と「簡易課税」の2種類があります。簡易課税制度とは簡単に言うと、中小企業などの事務負担を軽減するために、売上に関する消費税額を基に仕入れに関する消費税額を簡単に計算できる制度です。
しかし、事前に「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。この届出書を提出するタイミングを間違えてしまうと、簡易課税制度を利用できなくなってしまうので、注意が必要です。
ここでは、提出期限について解説します。
参考:国税庁「簡易課税制度」
新規開業のケース:開業等した課税期間の末日まで
事業を新しく始めた場合、簡易課税制度選択届出書は、開業した日を含む事業年度の末日までに提出すれば、設立した事業年度から簡易課税制度を適用できます。
例えば、3月決算法の人が2024年5月1日に開業した場合、事業年度は2024年5月1日から2025年3月31日までとなります。この場合、2025年3月31日までに届出書を提出すれば、2024年分の消費税から簡易課税制度を適用可能です。
しかし、事務処理の負担を減らすため、提出忘れのリスクを避けるためにも、できるだけ早めに提出することをおすすめします。
2期目以降のケース:適用を受けたい事業年度の初日の前日まで
すでに事業を営んでいて、新たに簡易課税制度の適用を受けたい場合、その適用を受けたい事業年度が始まる前日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。つまり、次の事業年度から適用したいのであれば、現在の事業年度が終わる日までに、届出書を税務署に提出しなければなりません。
例えば、3月決算の会社が、令和7年4月1日開始事業年度から適用を受けたい場合は、令和7年3月31日までに届出書を提出する必要があります。この期限を1日でも過ぎてしまうと、翌期からの適用はできず、さらに1年間待たなければなりません。
事業運営においては、様々な税金や社会保険の手続きが関わってきます。消費税の計算方法は特に事業の利益に大きく影響を与えるため、この期限はしっかりと覚えておきましょう。
原則課税と簡易課税のどちらが有利かは、事業の状況によって異なります。適用を受ける前に、税理士などの専門家に相談し、どちらの計算方法が自社にとってメリットがあるのかを、よく検討することをおすすめします。
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簡易課税制度選択届出書を出し忘れた場合の対策
簡易課税制度選択届出書を出し忘れた場合、消費税の課税期間を短縮することで、出し忘れによる不利益を抑えることができます。ここでは、出し忘れた場合の対策について解説します。
消費税の課税期間を短縮する
簡易課税制度選択届出書を提出期限までに出し忘れたとしても、諦める必要はありません。消費税の課税期間を短縮することで、簡易課税制度を通常よりも早めに適用できる可能性があります。
通常、消費税の課税期間は1年間です。個人事業主であれば1月1日から12月31日、法人であれば事業年度の開始日から終了日までが課税期間となります。しかし、この課税期間を1ヶ月または3ヶ月に短縮できます。
課税期間を短縮すると、その短縮した期間の開始日前に簡易課税制度選択届出書を提出することで、その期間から簡易課税制度を適用することが可能です。例えば、通常1年間の課税期間を1ヶ月に短縮した場合、1ヶ月ごとに届出書を提出するチャンスが生まれます。
最初の1ヶ月の開始日前に提出できなくても、次の1ヶ月の開始日前までに提出すれば、その期間から簡易課税を適用できるのです。
具体的な手続きとしては、まず「消費税課税期間特例選択・変更届出書」を税務署に提出し、課税期間を短縮します。この届出書は、短縮したい期間の開始日の前日までに提出する必要があります。
課税期間を短縮したら、短縮した期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しましょう。この二つの手続きを行うことで、短縮した期間から簡易課税制度の適用を受けることが可能になります。
参考:国税庁「課税期間」
短縮すると消費税の申告回数が増える
消費税の課税期間を短縮すると、簡易課税制度の適用を受けられるチャンスが増える一方で、消費税の申告回数も増えることになります。通常、課税期間が1年であれば、消費税の申告は年1回で済みます。しかし、課税期間を1ヶ月に短縮すると年12回、3ヶ月に短縮すると年4回の申告が必要です。
申告回数が増えるということは、それだけ事務作業の負担が増えるということです。消費税の計算や申告書の作成には、時間と手間がかかります。頻繁に申告を行う必要があるため、経理業務の効率化や、場合によっては税理士への依頼を検討する必要も出てくるでしょう。
経理業務の効率化や簡易課税制度の疑問や悩みは、石黒健太税理士事務所に気軽にお問い合わせください。
関連記事:いい税理士はすぐわかる?面談やホームページで見極めるポイントを解説
簡易課税を取りやめたいときはどうする?
簡易課税制度をやめたい場合、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」という書類を税務署に提出しなければなりません。これは、「これからは簡易課税制度を使いません」という意思表示をするための書類です。
提出期限は、原則課税を適用したい年度の開始日の前日までです。例えば、3月決算法人が令和7年度から原則課税にしたい場合は、令和7年3月31日までに提出する必要があります。
しかし、簡易課税を選択すると、原則として2年間は消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出することができないため注意しましょう。2年縛りについて、詳しくは後述します。
簡易課税制度を選択しない方がいいケース
簡易課税制度は必ずしも得になるわけではありません。ここでは、簡易課税制度を選択しない方がいいケースについて、わかりやすく解説していきます。簡易課税制度を選択するかどうか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
ケース1:高額な設備投資をする予定がある
簡易課税制度を選ばない方が良いケースの一つは、事業のために大きな金額の設備投資をする予定がある時です。簡易課税制度は、売上に対する消費税を基に計算するため、高額な設備投資をしても、支払った消費税を差し引くことができません。
高額な設備投資をした場合、簡易課税よりも原則課税の方が有利になることがあるため注意が必要です。
しかし、すべての設備投資が簡易課税よりも原則課税の方が有利となるわけではありません。事業のために購入したパソコンやソフトウェアなどの少額な買い物であれば、影響は少ないでしょう。
あくまでも、事業に大きな影響を与えるような高額な設備投資を予定している場合に、簡易課税制度が不利になる可能性があることを覚えておきましょう。
特に、建設業、製造業などのように、事業のために高額な設備投資が必要となる業種では注意が必要です。自分の事業で、今後どのような設備投資を予定しているのかをしっかりと確認し、どちらの課税方式が有利なのかを慎重に検討しましょう。
ケース2:異なる業種の事業をする予定がある
異なる業種の事業をする予定がある場合、簡易課税制度が有利にならない可能性があります。
簡易課税制度では、事業区分ごとに定められた「みなし仕入率」を使って、支払うべき消費税を計算します。例えば、卸売業は90%、小売業は80%、製造業は70%などです。複数の事業を営む場合は、既存の業種だけでなく、異なる業種を含めたシミュレーションによる判断が大切です。
正確な消費税の計算や、事業の実態に合わせた納税のためには、原則課税のほうが適しているかもしれません。自身の事業の種類や売上の割合などを考慮して、慎重に判断することをおすすめします。
ケース3:固定資産の売買が発生した年でシミュレーションをしている
固定資産を売買した年に、簡易課税の有利不利を判断するためのシミュレーションをすると、計算の結果が実態と合わなくなる可能性があります。あくまでも、固定資産の売買は一時的なものであるため、簡易課税のシミュレーションには含めない方が良いです。
シミュレーションは長期的な視点で、どちらの課税方式が有利なのかを検討することが重要です。事業の将来的な計画や、固定資産の取得・売却の予定なども考慮して、慎重に判断しましょう。
簡易課税のシミュレーションなど、消費税の有利不利の判断については気軽にご相談ください。
簡易課税制度を選択する前に注意すべきポイント
簡易課税制度は、メリットだけでなくデメリットもあります。簡易課税制度を選択することが、必ずしも有利に働くとは限らないため、慎重に検討しましょう。
簡易課税制度を選ぶ前に、知っておくべき重要なポイントは以下が挙げられます。
・2年間は継続して適用しなければならない
・5,000万円を超えると簡易課税による計算はできない
・複数業種を営む場合は事務負担が増えることがある
・消費税の還付を受けることができない
・しっかりとシミュレーションをする
ここでは、簡易課税制度を選択する前に注意すべきポイントについて解説します。
2年間は継続して適用しなければならない
簡易課税制度を一度選ぶと、最低でも2年間は簡易課税で消費税を計算しなければなりません。簡易課税を辞めたいからといって、すぐに元の計算方法に戻すことはできないので注意が必要です。
簡易課税制度は、売上から仕入れを引いて計算する通常の方法に比べて、手間が少なくなるのがメリットですが、自分の事業が将来どのように変化するかを予測して、慎重に選ぶ必要があります。
例えば、2年以内に大きな設備投資をして仕入れが増える予定がある場合、簡易課税制度では不利になるかもしれません。2年間の縛りがあることを理解した上で、自社の事業の将来を見据え、慎重に判断することが大切です。
事業を始めたばかりで売上が安定しない場合や、将来的に事業の規模が大きく変わる可能性がある場合は、特に注意が必要です。簡易課税制度は、一度選ぶと2年間は変更できないルールがあるため、選ぶ前にしっかりと検討しましょう。
5,000万円を超えると簡易課税による計算はできない
簡易課税制度は、売上が一定金額以下の場合にのみ適用できる制度です。具体的には、2期前の課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象となります。
例えば、年間の売上が4,000万円の事業者は簡易課税で消費税を計算できます。しかし、課税売上高が6,000万円になった場合、2年後は簡易課税制度は適用できません。
簡易課税制度選択届出書を提出した場合でも、課税売上の金額によっては、通常の方法によって消費税を計算する必要があります。
将来的に課税売上高が5,000万円を超える見込みがある場合は、最初から通常の計算方法を選んだ方が良い場合もあります。制度を利用できる条件を正しく理解し、自分の事業に合った選択をしましょう。
複数業種を営む場合は事務負担が増えることがある
簡易課税制度は、1つの事業を行っている場合には計算が簡単になりますが、複数の事業を行っている場合には、逆に計算が複雑になり、手間が増える可能性があります。
複数の事業を行っている場合、それぞれの事業区分ごとに、売上を計算する必要があるからです。みなし仕入率は、事業の種類によって決められており、例えば、卸売業は90%、小売業は80%、製造業は70%などです。
例えば、小売業と卸売業を営んでいる場合、売上を小売業と卸売業それぞれに区分する必要があります。複数業種を営んでいる会社は、簡易課税制度を使うことで、かえって計算が複雑になり、手間がかかる場合があります。
自分の事業が複数の業種にまたがる場合は、簡易課税制度が本当に適しているかどうか、慎重に検討しましょう。場合によっては、通常の計算方法の方が簡単で、時間も節約できるかもしれません。
参考:国税庁「簡易課税制度の事業区分」
消費税の還付を受けることができない
簡易課税制度を選ぶと、消費税を払いすぎた場合でも、還付を受けることができません。これは、簡易課税制度の大きな注意点の一つです。
簡易課税制度は、実際の仕入れにかかった消費税額ではなく、売上に対する消費税を基に計算します。実際の仕入れ額がみなし仕入率より多い場合でも、消費税の計算には影響しません。つまり、本来なら返してもらえるはずの消費税が、戻ってこない可能性があるのです。
例えば、事業を始めたばかりで設備投資に多くのお金を使い、仕入れにかかった消費税が、売上に対する消費税よりも多くなった場合でも、簡易課税制度では還付を受けられません。
この点を理解せずに簡易課税制度を選ぶと、後で「損をした」と感じることになるかもしれません。特に、大きな設備投資を予定している場合や、事業の性質上、仕入れが売上よりも多くなることが多い場合は、注意が必要です。
通常の計算方法であれば、払いすぎた消費税は還付されますので、どちらの計算方法が自社にとって有利なのか、事前にしっかりと確認することが大切です。
しっかりとシミュレーションをする
簡易課税制度を選ぶ前に、自社の事業の収入や経費の見込みをもとに、実際に消費税額がどうなるのかをシミュレーションすることが大切です。
簡易課税制度と通常の計算方法、どちらが自社の事業にとって有利なのかは、事業の状況によって異なります。シミュレーションをすることで、どちらの方法を選んだ場合が有利となるか、事前に確認できます。
例えば、過去数年間の売上や経費のデータを使って、簡易課税制度で計算した場合と、通常の計算方法で計算した場合の消費税額を比較してみましょう。また、将来の事業計画に基づいて、売上や仕入れがどのように変化するかを予測し、それをもとにシミュレーションすることも大切です。
シミュレーションは、エクセルなどの表計算ソフトを使うと便利です。インターネット上には、簡易課税制度のシミュレーションができるツールも公開されていますので、そういったものを活用するのも良いでしょう。
しかし、複数の業種など複雑な計算方法には対応していない可能性があるため、注意が必要です。
面倒だからとシミュレーションをせずに簡易課税制度を選ぶと、後で「通常の方法で計算した方が得だった」と後悔することになるかもしれません。手間はかかりますが、事前にしっかりとシミュレーションを行い、自分にとって最適な方法を選ぶことが、賢い選択につながります。
簡易課税の悩みや疑問は気軽にご相談を!
簡易課税は、原則として適用を受けたい事業年度が始まる前日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。出し忘れた場合は、消費税の課税期間を短縮することで出し忘れによる不利益を抑えることができます。
しかし、課税期間の短縮は消費税の申告回数が増え、時間や労力が必要となるため忘れずに提出するようにしましょう。
簡易課税を選択すると、消費税の還付を受けることができない、2年間は継続して適用しなければならないなどのデメリットがあります。事前にしっかりとシミュレーションし、自社にあった選択をしましょう。
石黒健太税理士事務所では、未来に向けた財務面での戦略的アドバイスや支援を提供しております。簡易課税のシミュレーションや疑問など、まずはお気軽にお問い合わせください。