法人が借入金を返済しても経費にはならない
経費とは、事業を行う上で必要となった支出のことです。具体的には、消耗品費や人件費などの勘定科目に当てはまる支出を指します。
しかし、冒頭でもお伝えした通り、法人の借入金返済は経費になりません。勘定科目にはグループ分けが存在するため、まずは簿記の基礎知識を知ることが大切です。
ここからは、借入金を正しく会計処理するための基礎知識について解説します。
借入金は負債に該当する
勘定科目は、以下の5つのグループに分かれています。
グループ |
概要 |
資産 |
会社が所有する現金や不動産などのプラス資産 |
負債 |
融資など将来返済が必要なマイナス資産 |
純資産 |
資本金や利益の余剰金など資産から負債を差し引いたもの |
収益 |
商品やサービスの売買などで得た収入 |
費用 |
従業員の給料やインフラなど事業活動で必要な支払 |
従業員の給料や事業に必要な光熱費などの支払いは、将来的に売上を生み出すことに繋がることから、経費として費用に該当します。
しかし、借入金は元本そのものが売上を生み出すとは考えにくいため、マイナス資産として負債に該当します。つまり、借入金の返済は会計のルール上、経費にはならないのです。
また、これらのグループ分けは、決算で作成する「賃借対照表」と「損益計算書」にも影響します。賃借対照表は、資産・負債・純資産のグループで構成され、損益計算書は、収益・費用のグループで構成されます。
仕訳ミスによって決算にも影響を及ぼす可能性があるので、借入金の返済は経費ではなく、負債として処理しましょう。
関連記事:売上高は決算書のどこを見る?売上高と売上の違い・経営者が決算書に強くなる方法
借入金が入金されても収入にならない
原則的に借入金は、お金の貸し借りのため入金されても収入になりません。借入金によって負債が増えることになるため、借入金の入金時には、借方に「普通預金」、貸方に「(短期または長期)借入金」として仕訳が必要です。
ただし、借入金を利用して経費を購入した場合は経費になります。くわしくは後述します。また、借入ではなく贈与となるケースは注意が必要なため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。当事務所でもご相談可能なため、まずはお気軽にお問い合わせください。
支払利息は経費に計上される
借入金の元金は経費になりませんが、返済時に発生する支払利息については経費に計上されます。例えば、100万円の融資を受けて、利息込みで110万円返済したケースの場合、以下の内訳になります。
【利息も含めて110万円返済した場合】
・借入金の元本…100万円
・支払利息…10万円
このケースでは、支払利息の10万円が経費になるため、元本とは別で仕訳処理を行わなければなりません。仕訳や勘定科目の設定については、後ほどくわしく解説します。
借入金を税金対策に活用する方法
法人の税金対策には、主に「経費の支出」と「減価償却」が挙げられます。これらは費用に計上されますが、費用が増えると利益や課税所得が減少するため、節税に繋がります。そのため、これらの支出の元手に借入金を活用すれば、税金対策を行うことが可能です。
ここからは、借入金を税金対策に活用する方法を2つ紹介します。
・借入金をもとに経費を支払う
・借入金をもとに設備投資する
くわしく解説します。
借入金をもとに経費を支払う
借入金返済は経費になりませんが、借入金をもとに経費を支払うことで税金対策が可能です。例えば、金融機関から100万円を借りて、うち10万円を店舗の家賃の支払いに充てた場合、家主に支払った10万円は、地代家賃として経費計上できます。
このケースでの仕訳は、以下の通りです。
借方 |
貸方 |
普通預金 1,000,000円 |
(長期または短期)借入金 1,000,000円 |
地代家賃 100,000円 |
普通預金 100,000円 |
このように、借入金の返済そのものは経費にできませんが、経費の支払いに充てることで、間接的に借入金を使った節税対策が可能です。ただし、用途は事業活動に必要な支出に限ります。プライベートの支出は経費にならないので注意しましょう。
借入金をもとに設備投資する
設備投資とは、事業を発展・拡大させるために必要な設備の購入のことです。具体的には、事業に必要な不動産・車の購入などが設備投資にあたります。
また、設備投資の取得金額は、条件を満たせば減価償却費に該当します。減価償却費とは、固定資産の取得にかかった金額を耐用年数に応じて分割し、経費計上する費用のことです。
減価償却によって長期の節税が可能になるため、設備投資を行う際は、借入金を上手く活用して節税に取り組みましょう。ただし、節税に効果的な設備投資は、業種や会社の実情によって異なります。
当事務所では、飲食店やサービス業など、様々な業界で節税対策を支援した実績がございます。設備投資などの効果的な節税対策のご提案が可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
関連記事:税理士は無料相談でどこまで対応してくれる?電話相談はおすすめできない理由と有意義にするポイント
参考:国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」
借入金返済の仕訳と勘定科目
借入金の入金や返済などの取引では、仕訳処理で悩む方も多いでしょう。ここからは、借入金の入金や返済などのパターン別に、仕訳と勘定科目の具体例を紹介します。
ちなみに、借入金には、短期借入金と長期借入金の2種類があります。返済期日が1年以内に到来する場合は「短期借入金」、返済期日が1年を超える場合は「長期借入金」となるので、勘定科目に注意しましょう。
【例:借りた100万円について入金があったとき】
借方 |
貸方 |
普通預金 1,000,000円 |
(長期または短期)借入金 1,000,000円 |
【例:借入金の元本50万円を返済するときに支払利息5万円も一緒に支払ったとき】
借方 |
貸方 |
(長期または短期)借入金 500,000円 |
普通預金 550,000円 |
支払利息 50,000円 |
【例:借入金の利息部分のみを返済するとき】
借方 |
貸方 |
支払利息 50,000円 |
普通預金 50,000円 |
【例:長期借入金の残債を短期借入に振り返る場合】
借方 |
貸方 |
長期借入金 500,000円 |
短期借入金 500,000円 |
借入金の返済が複数の年にまたぐときは、翌年に返済期限が到来する金額について、決算時に長期借入金から短期借入金に振り返る仕訳処理が必要です。借入金の仕訳は、入金や返済のタイミングだけではないので知っておきましょう。
借入金返済が資金繰りを圧迫するケース
税金対策にも活用可能な借入金ですが、借入金返済が資金繰りを圧迫するケースがあります。資金繰りが悪化すると手元の資金が減少し、経営が困難になることも珍しくありません。借入金は事前の計画立てや自社にあった調達方法などが必要です。
ここからは、借入金返済が資金繰りを圧迫するケースについて紹介します。
ケース1:借入金額が大きすぎる
ケース2:返済期間が短すぎる
ケース3:金利が高い
ケース4:売掛金が回収できていない
ケース5:過剰に在庫を抱えている
経営を左右する大切な内容のため、しっかり理解しておきましょう。
ケース1:借入金額が大きすぎる
順調な資金繰りには、収支のバランスを安定させることが欠かせません。そのため、稼いだ利益よりも借入金の返済額が大きいと、収支のバランスが崩れ、資金がショートする恐れがあります。
資金がショートすると、資金不足の状態に陥るため、取引先や従業員の給料などの支払いが困難になるなどのトラブルが発生します。最悪の場合、倒産の可能性もあるため、借入金額は運転資金や月商などを目安に、適切な金額を申し込みましょう。
ケース2:返済期間が短すぎる
借入金の返済期間が短いと、毎月の元本の返済額が高額になる恐れがあります。また、創業間もない企業の場合、事業開始後の数か月間は売上が立たないことも珍しくありません。
短い返済期間は、利息を減らすことができ、最終的な支払額が抑えられるメリットがある一方、事業が軌道に乗るまでは大きな負担となるデメリットもあります。返済期間は、事業計画書をしっかりと作りこみ、想定した利益などをもとに設定しましょう。
また、創業融資などでは、一定期間は元本の支払を猶予して利息のみを支払う「据置期間」が設けられることがあります。据置期間は、事業が軌道に乗るまでの資金繰りを安定化させる効果があるため、創業時や業績悪化時などは活用すると良いでしょう。
ケース3:金利が高い
借入金の金利は、金融機関や融資制度によって異なります。金利が高い場合は、支払利息も高額になり、結果として資金の減少に繋がってしまうのです。
一般的に民間の金融機関や消費者金融よりも、日本政策金融公庫などの公的機関の方が、借入金返済での金利は低い傾向にあります。借入や融資を申し込む際は、金利が低い金融機関を選びましょう。
また、借入金の支払利息は、経常利益の算出に影響します。経常利益とは、すべての事業を通じて得た利益のことで、会社の経営状態や課題、改善点を把握できる重要な指標です。
事業の健全性や収益性を高めるためには、支払利息を減らして経常利益を増やす必要があります。以下の記事では、経常利益についてくわしく解説しています。
関連記事:経常利益は決算書のどこを見る?営業利益より経常利益が高い理由とどちらが重要か解説
ケース4:売掛金が回収できていない
提供した商品やサービスの対価を売掛金で処理し、後払いで受け取ることも多いでしょう。しかし、売掛金は十分な管理が必要です。売掛金が回収できていないケースでは、資金繰りが悪化し、借入金の返済や経営に影響が出ることも珍しくありません。
また、売掛金の時効は新民法のもとでは5年です。時効を超えると売掛債権が消滅し、代金の回収ができなくなるため注意が必要です。売掛金については、日々の入金確認など、管理できる体制を整えておきましょう。
ケース5:過剰に在庫を抱えている
過剰な在庫によって多額の保管コストや維持費が発生すると、資金の減少を招きます。そのようなときに借入金返済があると、さらに資金繰りを圧迫してしまい、経営の悪化に繋がる恐れがあります。
過剰に在庫を抱えている状態は、売上不振や過剰な仕入れが原因となっていることが多く、早急に改善しなければなりません。過剰な在庫を減らすには、在庫処分セールなどの対策が必要です。
また、過剰な在庫は、お金がない会社の特徴にも当てはまるため要注意です。以下の記事では、会社にお金が残らない理由などを解説しています。ぜひ参考にしてください。
関連記事:お金がない会社の特徴とお金が残らない本当の理由は?経営を安定化するための改善策
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借入金の元本の返済は経費になりませんが、支払利息については経費計上が可能です。また、借入金を税金対策に活用する方法として、借入金をもとに経費の支払いや設備投資を行うことが挙げられます。
しかし、設備投資などの税金対策は、準備が必要なものが多く、業種などによっても効果的な対策が異なるため注意が必要です。誤った対策によって、資金の減少を招き、資金繰りの悪化に繋がる恐れがあります。自社にあった税金対策は専門家に相談しましょう。
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