役員借入金を返済したときの仕訳例
役員借入金は、会社にとってメリットの多い資金調達方法ですが、返済時には適切な会計処理を行う必要があります。ここでは、役員借入金を返済したときの、具体的な仕訳例について解説します。
利息が発生しないケース
無利息で会社に資金を貸している経営者の方は珍しくありません。利息が発生しないことで、会社側は資金調達コストを抑えることができます。
例えば、役員が会社に無利息で100万円を貸し付け、その後、会社が100万円を返済する場合を考えてみましょう。この場合、利息が発生しないため、仕訳はシンプルになります。
例 10/31 役員が会社に100万円を貸し付け 1/25 借りていた100万円を普通預金で返済 |
10/31の仕訳
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
1,000,000 |
役員借入金 |
1,000,000 |
1/25の仕訳
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
役員借入金 |
1,000,000 |
普通預金 |
1,000,000 |
利息が発生しないケースでは、元本のみの返済となるため、仕訳は比較的簡単です。
利息が発生するケース
役員借入金は利息が発生しないことが多いですが、場合によっては利息を付けて返済するケースもあります。例えば、役員と会社間で金銭消費貸借契約を結んでいる場合などが考えられます。
利息が発生する場合、返済時の仕訳は少し複雑です。例えば、役員が会社に100万円を貸し付け、年利1%の利息を付けて返済する場合を考えてみましょう。1年後に会社が元本と利息を合わせて返済するとします。
例 10/31 役員が会社に年利1%の利息を条件に100万円を貸し付け 10/30 借りていた100万円と利息1万円を普通預金で返済 |
10/31の仕訳
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
普通預金 |
1,000,000 |
役員借入金 |
1,000,000 |
10/30の仕訳
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
役員借入金 |
1,000,000 |
普通預金 |
1,010,000 |
支払利息 |
10,000 |
利息が発生するケースでは、元本と利息を分けて仕訳する必要があるため、注意が必要です。
役員借入金を減らす方法と注意点
役員借入金は放置すると、金額が増え返済が難しくなったり、相続時にトラブルを引き起こしたりする可能性もあります。ここでは、役員借入金を減らすための方法と注意点について解説します。
現預金で返済する
最もシンプルな方法が、会社の現預金から役員借入金を返済することです。会社に十分な現預金があれば、すぐにでも返済できます。この方法は、手続きが簡単で、他の方法に比べて時間もかかりません。
例えば、会社の口座に1,000万円の現預金があるとします。役員借入金が300万円であれば、300万円を役員に返済することで、役員借入金を減らすことができます。
ただし、会社の運転資金を圧迫しないよう、返済額は慎重に検討する必要があります。役員借入金を返済することで、会社の資金繰りを悪化させてしまっては本末転倒です。返済する前に、会社の財務状況をよく確認し、無理のない範囲で返済計画を立てるようにしましょう。
役員報酬を減額して返済する
役員報酬を減額し、その分を役員借入金の返済に充てる方法もあります。毎月の役員報酬から一定額を差し引いて返済に充てることで、計画的に役員借入金を減らしていくことができます。
例えば、役員報酬が毎月50万円の場合、10万円を減額して40万円とし、減額した10万円を役員借入金の返済に充てることが可能です。
しかし、役員報酬を減額すると、会社の利益が増えます。会社の利益が増えると法人税にも影響するため、減額する金額には注意が必要です。
また、役員報酬は原則として、事業年度開始から3ヶ月以内に変更が必要です。役員報酬を減額する場合は、減額するタイミングや金額など、税理士と相談することをおすすめします。
関連記事:会社が税理士を雇わないリスクは?税理士なしで法人決算をする方法と費用を抑えるポイント
債務免除をする
債務免除とは、役員が会社に対する債務を免除する方法です。会社は借入金を返済する必要がなくなり、多額の役員借入金を抱えている場合でも、一気に解消することが可能です。
例えば、役員借入金が1,000万円ある場合、債務免除を行うことで、会社は1,000万円の返済義務から解放されます。
ただし、債務免除を受けた会社側には、債務免除益という利益が発生し、法人税の課税対象となります。また、役員借入金の債務免除には、贈与税が課税される恐れがあるため注意しましょう。
DES(デット・エクイティ・スワップ)を活用する
DESとは、Debt Equity Swapの略で、役員借入金を会社の資本金に振り替える方法です。この方法を利用すると、役員借入金は会社の資本金に組み込まれるため、返済する必要がなくなります。また、会社の財務状況を改善する効果も期待できるでしょう。
例えば、役員借入金が1,000万円ある場合、DESを行うことで1,000万円分の借入金が資本金に転換されます。
しかし、DESは手続きが複雑で、専門的な知識が必要となります。また、会社の支配構造に影響を与えるだけでなく、税金の負担が増えるかもしれません。事前に税理士などの専門家に相談するなど、慎重に進める必要があります。
役員借入金の返済方法についての悩みや疑問は、気軽に石黒健太税理士事務所までご相談ください。無料相談を実施しておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
役員借入金を返済しないと相続の税金に影響する
役員借入金を返済せずに放置しておくと、相続が発生した際に思わぬ税金負担につながることがあります。ここでは、役員借入金が相続税に与える影響について、わかりやすく解説していきます。
役員借入金は相続財産に含まれる
役員借入金は、会社から見れば借金ですが、役員個人から見れば「会社に貸しているお金」つまり債権となります。
役員が亡くなった場合、この債権は相続財産の一部として扱われます。相続財産には、預貯金や不動産だけでなく、このように会社への貸付金も含まれるのです。
例えば、Aさんが会社に1,000万円を貸し付けていたとします。Aさんが亡くなった場合、この1,000万円はAさんの相続財産となり、相続人はこの1,000万円に対して相続税を支払わなければなりません。
たとえ会社がまだ返済していなくても、Aさんの相続財産として計上されるため、相続税の計算上は、Aさんが1,000万円の資産を保有していたのと同じ扱いになるのです。
このように、役員借入金は相続税の課税対象となるため、生前に返済しておくか、相続対策を検討しておくことが大切です。
役員借入金が増えると相続税の負担が大きくなる
役員借入金の残高が多いほど、相続財産も増加し、結果として相続税の負担も大きくなってしまいます。
相続税は、相続財産の総額に応じて税率が決まります。そのため、役員借入金のような大きな財産が加算されると、相続税の税率が上がり、支払うべき税金も多くなってしまうのです。具体的には、以下の税率です。
法定相続分に応じた取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
ー |
1,000万円超〜3,000万円以下 |
15% |
500,000円 |
3,000万円超〜5,000万円以下 |
20% |
2,000,000円 |
5,0000万円超〜1億円以下 |
30% |
7,000,000円 |
1億円超〜2億円以下 |
40% |
17,000,000円 |
2億円超〜3億円以下 |
45% |
27,000,000円 |
3億円超〜6億円以下 |
50% |
42,000,000円 |
6億円超 |
55% |
72,000,000円 |
例えば、課税遺産総額が1億円の場合と、役員借入金1億円が加わって2億円になった場合では、適用される税率が変わります。役員借入金を返済せずに放置しておくと、相続税の負担が大きくなり、相続人の生活を圧迫するリスクがあるとも言えます。
会社経営において、役員借入金は資金繰りの有効な手段の一つですが、相続税への影響も考慮し、計画的に返済を進めていくことが大切です。
参考:国税庁「相続税の税率」
役員借入金を返済するタイミング
役員借入金を返済するタイミングは、厳密に定められているわけではありません。会社の状況や役員個人の事情に合わせて、柔軟に対応できます。
会社の資金に余裕があるとき
会社の業績が好調で利益が十分に出ており、手元の資金も豊富にある状態ならば、借入金を無理なく返済できるでしょう。資金に余裕がないうちに返済を急いでしまうと、会社の資金繰りが苦しくなり、最悪の場合、事業の継続に支障をきたす可能性があります。
例えば、必要な仕入れができなくなったり、従業員の給料が支払えなくなったりといった事態が考えられます。事業が順調に回っているからといって、すぐに役員借入金を全額返済してしまうと、急な出費が必要になった時に対応できなくなるかもしれません。
会社の業績や資金繰りの状況を常に確認し、十分な余裕資金を確保した上で、計画的に返済を進めることが重要です。無理なく返済できるタイミングを見極め、会社の健全な経営を維持しましょう。
役員個人に資金が必要なとき
会社から役員へお金を移動させるにはいくつかの方法がありますが、役員借入金の返済という形であれば、税金の負担を抑えることができます。
役員が会社からお金を受け取る方法として、役員報酬や賞与などがあります。これらは給与所得として課税されるため、一定の税金を支払う必要があります。
一方で、役員借入金の返済は、あくまでも貸したお金を返してもらうだけなので税金は発生しないでしょう。役員個人に大きな出費の予定がある場合、借入金の返済は資金を確保する有効な手段の一つとなります。
役員個人に資金が必要になったタイミングで、会社の資金繰りに問題がないかを確認した上で返済することが、役員と会社双方にとってメリットのある選択肢となるでしょう。
ただし、会社のお金を役員個人の都合だけで自由に動かせるわけではないので、あくまでも計画的に行うことが重要です。
相続税対策を検討するとき
先述したとおり、相続が発生した場合、役員借入金は相続財産として扱われます。そのため、相続税対策として、生前に役員借入金を返済しておくことが有効な場合があります。
役員借入金が多額にあると、相続発生時にその金額が相続財産に加算され、結果として相続税の負担が大きくなるかもしれません。しかし、生前に役員借入金を減らしておけば、相続財産の評価額を下げることができ、相続税の負担を軽減できる可能性があります。
相続税対策は、早めに対策を講じることで、より効果を発揮します。そのため、将来的な相続を見据えて、役員借入金の返済を検討することが重要です。
ただし、相続税対策は専門的な知識が必要となるため、税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。専門家のアドバイスを受けながら、適切なタイミングで役員借入金の返済を実行することが、円満な相続への第一歩となるでしょう。
関連記事:自社にあった税理士の探し方は?気をつけることを税理士目線で解説
役員借入金の返済に関する悩みは気軽に相談を!
役員借入金はいつでも返済できますが、会社の状況や役員個人の事情に合わせて以下のタイミングが挙げられます。
・会社の資金に余裕があるとき
・役員個人に資金が必要なとき
・相続税対策を検討するとき
役員借入金を放置すると、返済が難しくなったり、相続時に税金の負担が増えたりする恐れがあります。特に、数千万円といった多額の役員借入金がある場合は、早めに対策することをおすすめします。
役員借入金の悩みや、相続税対策の疑問などについては、税理士などの専門家に相談しながら進めましょう。
当事務所は、財務の専門家として、お客様の経営目標に合わせた財務戦略の提案や持続的な企業の成長などを実現するサポートを実施しています。業績報告会を開催し、役員借入金の返済に向けたサポートも可能です。