年末調整

12月退職が年末調整の対象者になるケースとは?1月支給と年末調整以外の注意点

 

「12月退職者は年末調整が必要?」「他に必要な手続きはあるのか」年末調整は、原則12月31日に在籍している従業員を対象に行いますが、12月31日前の退職でも対象となる例外があります。

また、年末調整を失念すると「ペナルティを課せられる」「退職者とトラブルになる」などのデメリットが生じる可能性があります。無用なトラブルなどを避けるためにも、退職者について年末調整が必要か知っておきましょう。

本記事では、12月退職で年末調整の対象になるケースをくわしく紹介します。記事を読めば、退職者について年末調整が必要かどうかがわかるようになるでしょう。

 

目次

12月退職が年末調整の対象者になるケース

年末調整とは、毎月の給与から源泉徴収した所得税について、過不足が生じていないか確認し、精算する手続きです。例外として、12月31日前の退職者でも以下のケースに当てはまれば、他の従業員と同じく年末調整が必要です。

 

・12月分の給与を受け取った後に退職

・死亡による退職

・著しい心身の障害により退職し年内の再就職が見込めない

・本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下

 

参考:国税庁「年末調整の対象となる人

ケース1:12月分の給与を受け取った後に退職

12月支給の給与を受け取った後、年内に退職するケースも年末調整の対象です。例えば、12月15日に給与を受け取り、12月末までに退職する場合が当てはまります。

 

12月31日に在籍していなくても年末調整を行う理由は、再就職しても、年内に給与を受け取る可能性は低いと考えられるためです。

 

ただし、くわしくは後述しますが、年末調整の対象となる給与は、年内に支払われたものです。締めの関係で1月以降に支払う給与は、年末調整には含めないことを知っておきましょう。

ケース2:死亡による退職

死亡による退職の場合も年末調整が必要です。死亡による退職のケースでは、従業員が亡くなるまでに支払った給与や賞与について、年末調整を行います。しかし、死亡日以降に支払日が到来する給与については、遺族の相続財産となるため年末調整には含めません。

 

例えば、11月30日に死亡した人が勤めていた会社が月末締め翌月15日払いだった場合は、以下の通りになります。

 

・1月~11月15日までの給与…年末調整の対象

・12月15日に支払う給与…遺族の相続財産につき、年末調整対象外

 

また、遺族の相続財産となる給与については、遺族への源泉徴収票の交付が必要です。

 

参考:国税庁「死亡により退職した者の給与に係る源泉徴収票の交付

ケース3:著しい心身の障害により退職し年内の再就職が見込めない

著しい心身の障害には、うつ病などの精神疾患や交通事故などで身体が不自由になるなどの重篤なケースが当てはまるでしょう。心身の障害によって年内の再就職が見込めないと判断できるときは、年末調整が必要です。

 

しかし、会社側で年内の再就職が可能か判断がつかないケースも珍しくありません。判断が難しいときは、医療機関で疾患や障害が認定されていないか、診断書などで確認を取ると良いでしょう。

ケース4:本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下

パートやアルバイトなどで本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下の人は、控除額が所得額を上回るため、所得税の支払が発生しません。しかし、所得税は毎月の給与から源泉徴収されているため、払い過ぎた所得税の還付を受け取るには年末調整が必要です。

 

給与の総額が103万円以下の退職者も、年末調整が必要であることは知っておきましょう。

 

ただし、退職後その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は、年末調整の手続きは不要です。この場合、他の勤務先で前職の給与を合算して年末調整を行うか、退職した本人が確定申告を行うことになります。

12月退職が年末調整の対象者にならないケース

原則的に、会社は従業員の年末調整の手続きを行う義務があります。しかし、以下のケースは、年末調整の対象者にはならないため手続きは不要です。

 

・給与の総額が2,000万円を超える

・12月分の給与を受け取る前に退職

・中途入社で前職分の源泉徴収票がない

 

くわしく解説していきます。

ケース1:給与の総額が2,000万円を超える

年間の給与の総額が2,000万円を超えるときは、確定申告が必要なため、年末調整は行いません。この場合は、源泉徴収票を本人へ交付し、確定申告をするよう案内します。

 

また、給与の総額が2,000万円を超える人の源泉徴収票については、以下項目の記載が必要です。

 

・支払を受ける者の住所、氏名、マイナンバー、生年月日

・種別や支払金額、源泉徴収税額

・控除対象扶養親族や16歳未満の扶養親族、障害者などの数

 (控除対象扶養親族と16歳未満の扶養親族に至っては氏名)

・中途就・退職

・給与支払者の住所(居所)、氏名、電話番号、マイナンバー(法人番号)

 

源泉徴収票の記載に悩むときは、税務署や税理士に相談し、正しい事務処理を行いましょう。当事務所でも、年末調整や源泉徴収票の事務処理についてご相談できます。お気軽にお問い合わせください。

 

参考:国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人

参考:国税庁「給与等の金額が2,000万円を超える者の源泉徴収票の記載要領

ケース2:12月分の給与を受け取る前に退職

12月給与を受け取る前の退職は、年末調整の対象外です。例えば、12月15日で退職した従業員の給料日が12月25日の場合、支給日前の退職となるので年末調整は行いません。

 

退職者へ源泉徴収票の交付を行い、確定申告か、交付した源泉徴収をもとに他社で年末調整を行うよう案内する必要があります。

 

年末調整の対象になるかは、退職日が12月の給与の支給日前か後かで判断するとわかりやすいでしょう。

ケース3:中途入社で前職分の源泉徴収票がない

年の途中での入社で前職分の源泉徴収票がないときは、前職で源泉徴収された所得税額がわからないため、年末調整できません。ただし、年末調整ができなくても、年間の給与の支払額が250万円を超えるときは、源泉徴収票を税務署に提出します。

 

また、前職分の源泉徴収票がないケースでは、確定申告が必要になることも珍しくありません。以下の記事では、源泉徴収が手元にないときの対処法や源泉徴収がないことで生じるデメリットなどを解説しています。

 

源泉徴収がなくてお困りの方は、ぜひお読みください。

 

関連記事:源泉徴収票がないと年末調整はどうなる?対処法や間に合わないケースを解説

参考:国税庁「前の給与の支払者が支払った給与等の金額が分からないときの提出範囲

12月31日退職で1月支給する人の年末調整は?

ここまでは、12月退職のケースを想定して年末調整の取り扱いを解説してきました。しかし、会社によっては、締めの関係で12月分の給与を1月に支給する会社もあるでしょう。ここからは、12月31日退職で翌年の1月に支給する場合の年末調整について解説します。

退職する年は年末調整を実施する

先ほどもお伝えした通り、年末調整は12月31日に在籍していた従業員を対象に行います。当然ですが、12月31日退職の人も年末調整の対象です。年末調整の対象となるのは、その年の1月1日~12月31日までに支払われた給与と賞与です。

 

12月31日退職の場合、会社側は退職する年の1月~12月までに支払った給与と賞与の金額をもとに、正しい所得税額を確定します。源泉徴収によって超過となった金額については還付を、不足については追徴を行わなければなりません。

 

以下の記事では、年末調整についてさらにくわしく解説しています。年末調整が間に合わないケースなどの対処法も紹介しているため、お困りの方はぜひお読みください。

 

関連記事:年末調整とはいつからいつまでの収入が対象?12月分を1月支払いする場合の対処法を解説

1月支給する給与は翌年の年末調整の対象になる

1月支給の給与は、翌年の年末調整の対象となります。例えば、月末締め翌月15日払いの会社で令和6年12月31日付で退職した従業員がいる場合の事務の取り扱いは以下の通りです。

 

・12月15日支給の給与…令和6年年末調整対象

・翌年1月15日支給の給与…令和7年収入のため令和6年の年末調整には含めない

 

締めの関係で給与の支給が翌月になる場合は、11月分(12月支給分の給与)までが年末調整の対象になります。何月分の給与かで判断するのではなく、支給日が年内か翌年になるかで判断するとわかりやすいでしょう。

 

参考:国税庁「No.2668 年末調整の対象となる給与

12月いっぱいで退職する人の源泉徴収票の取り扱い

源泉徴収票には、1年間に支払った給与額や徴収した税金、社会保険料の金額などを記載し発行します。源泉徴収票は翌年1月31日までに、本人への交付と税務署への提出が必要です。

 

ここからは、12月いっぱいで退職した人の源泉徴収票の取り扱いをくわしく紹介します。

翌年に支払う給与分の源泉徴収票も必要になる

12月いっぱいで退職する人には、1月~12月までに支給した給与額などを記載した源泉徴収票を発行します。ただし、給与の支払が翌月払いで最終給与が1月になる場合は、退職する年の源泉徴収票とは別に、1月支給分についても源泉徴収票の発行が必要です。

 

(例)月末締め翌月払いの会社で令和6年12月いっぱいまで勤めて退職

・1月~12月支給分の給与…令和6年分源泉徴収票

・翌年1月支給分の最終給与…令和7年源泉徴収票

 

また、退職手当がある場合は、上記に加えて「退職所得の源泉徴収票」を発行します。退職金などの手当は、給与所得とは分けて税金を計算する仕組み(分離課税)となっているため、給与と合算して源泉徴収票を作成しないよう注意しましょう。

12月退職者がいるときの年末調整以外の注意点

従業員が退職した場合、年末調整以外にも必要な手続きがあります。例えば、住民税に関することや税務署への提出が必要な書類の作成、退職者への案内などが挙げられます。

 

特に12月は、1年間の収入が確定する時期のため、通常の退職よりも手続きが煩雑と言えるでしょう。12月退職者がいるときの注意点は、以下の3つです。

 

・住民税は一括徴収か普通徴収が選択できる

・給与支払金額が30万円を超えると給与支払報告書の提出が必要になる

・年末調整できないときは確定申告を説明する

住民税は一括徴収か普通徴収が選択できる

12月退職者の住民税の未徴収額については、最終給与や退職手当からの「一括徴収」か退職者本人が直接納付する「普通徴収」のいずれかを選択できます。

 

また、退職により毎月の給与天引きから一括徴収か普通徴収に変更するときは、市町村へ「給与所得者異動届出書」の提出が必要です。提出期限は、退職のあった月の翌月10日までなので、失念しないよう注意しましょう。

 

参考:京都市「退職・転勤された場合(給与所得者異動届出書の提出)について

給与支払金額が30万円を超えると給与支払報告書の提出が必要になる

給与支払報告書は、従業員に対して1年間に支払った給与額などを市町村に報告するための書類です。原則として従業員全員について、給与支払報告書の提出が必要です。

 

しかし、退職者の給与支払報告書の取り扱いは、他の従業員と異なります。退職者の場合は、年間の給与支払金額が30万円以下なら給与支払報告書の提出は必要ありません。

 

一方、退職者に支払った年間給与額が30万円を超えるケースでは、他の従業員と同様に給与支払報告書の提出が必要です。給与支払報告書の提出を失念すると、罰則などのペナルティを受けることがあるので注意しましょう。

年末調整できないときは確定申告を説明する

「前職の源泉徴収票がない」「給与収入が2,000万円を超える」など、年末調整できないケースがあります。このケースでは、所得税の精算ができず、過不足が生じたままとなっています。払い過ぎた所得税の還付の受け取りや不足額の納付を行うためには確定申告が必要です。

 

無申告や申告期限から遅れての確定申告は、延滞税などのペナルティを課せられる恐れがあります。また、還付金請求の時効は5年で、時効が過ぎると払い過ぎた税金は戻ってきません。

 

確定申告の案内が漏れていたケースでは、「会社から案内がなかった」などの退職者からのクレームも珍しくありません。無用なトラブルを避けるためにも、年末調整ができなかった退職者には確定申告をするよう説明しましょう。

退職者の年末調整は気軽に相談を!

12月退職で年末調整が必要なケースもあれば、年末調整できないケースもあります。退職日や給与の支給日、年間の給与額などから判断しますが、退職者がどのケースに当てはまるかわからないときは税理士への相談がおすすめです。

石黒健太税理士事務所では、年末調整についてのご相談も承っています。ケース別の相談はもちろん、リソース不足に悩む企業様には年末調整業務の効率化による、工数や事務負担の削減もご提案可能です。

無料相談も行っていますので、お困りの方はぜひお気軽にお問い合わせください。

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