個人事業主と法人化はどっちが得?シミュレーション結果を解説
目次
- 個人事業主と法人化はどっちが得?
- 事業規模や将来の展望によって異なる
- 法人化するメリット
- 法人化するデメリット
- 個人事業主が法人化するシミュレーション
- 個人事業主の所得800万円
- 法人の所得110万円・役員報酬600万円
- 個人事業主から法人化する方がいいケース
- ケース1:所得が800万円を超えている
- ケース2:年間の課税売上高が1,000万円を超えている
- ケース3:事業承継をスムーズにしたい
- ケース4:経営者自身も社会保険に加入したい
- ケース5:節税対策がしたい
- 個人事業主から法人化しない方がいいケース
- ケース1:赤字が続いている
- ケース2:近い将来に廃業を考えている
- ケース3:社会保険に加入したくない
- 法人化の悩みや税理士に相談!
「法人化した方が得になるのかな」「法人化のタイミングがわからない 」個人で事業を営んでいると、法人化した方が得と言われることも珍しくありません。
しかし、どっちが得になるかは、事業規模や将来の展望などによって異なるので一概には言えません。また、法人化は、節税などのメリットがある一方で、事務負担が増えるなどのデメリットもあります。法人化後に後悔しないためにも十分な検討が必要です。
本記事では、個人事業主と法人化はどっちが得なのか、法人化した際のシミュレーションを交えて徹底解説します。法人化を推奨するケースも紹介するので、個人事業主と法人化のどちらを選べば良いか判断できるようになるでしょう。
個人事業主と法人化はどっちが得?
個人事業主と法人は、支払う税金の種類や開業の手続きなど様々な違いがあるので知っておきましょう。例えば、個人事業主には「所得税」などが発生しますが、法人には「法人税」などが発生します。
法人化のメリットやデメリットを知らないまま法人成りしてしまうと、「個人事業主の方が良かった」と後悔することにもなりかねません。ここからは、どっちが得なのかメリットやデメリットも踏まえて紹介します。
事業規模や将来の展望によって異なる
個人事業主と法人化のどっちが得になるかは、事業規模や将来の展望によって異なるため注意が必要です。
個人事業主は、事業に関連する業務を一人でこなすケースが多く、法人と比べて必要な資金は少額でしょう。しかし、法人なら、従業員を採用して営業や事務、経理などの業務に人員を割り当てることができます。人員だけでなく、資金も法人の方が集めやすいです。
将来的に売上高や店舗数などを拡大したいのであれば、法人化した方が、ビジネス成功の可能性が高まる点や節税などの観点から得と言えるでしょう。
しかし、法人は一人社長も社会保険の加入義務が必要なため、社会保険や労働保険などの経費や事務負担が増えます。一人で事業を行いたい方や負担を増やしたくない方は、個人事業主の方が得という見方もできます。
どのような状況が得なのかは、人によって様々です。法人化は、将来の展望や理想とするビジネスモデルを明確にした上で検討しましょう。
法人化するメリット
法人化には、以下のメリットがあります。
・社会的信用が高くなる
・資金調達しやすくなる
・社会保険に加入できるようになる
・事業承継をスムーズにしやすくなる
・節税効果が高い
個人事業主よりも社会的信用が得やすいです。社会的信用が得られれば、融資などの資金調達にもプラスの影響が表れます。
また、詳しくは後述しますが、社会保険に加入できる点や事業承継しやすくなる点もメリットです。そして、法人は個人事業主と比べて税金面の優遇が多いため、節税効果が高いのは最大のメリットと言えるでしょう。
関連記事:個人事業主が税金貧乏になる理由は?対策とお金の残し方を解説
法人化するデメリット
法人化には、以下のデメリットがあります。
・会社設立や商業登記の手続きが煩雑
・社会保険の加入が義務となる
・従業員の雇用によって費用や事務の負担が増える
・赤字でも法人市民税が発生する
起業や会社設立だけでなく、役員の変更や店舗の移転といった場合も商業登記が必要です。事業実態に変更がある都度、法務局への手続きが必要な点は、事業に専念したい人にとってはデメリットと言えるでしょう。
また、詳しくは後述しますが、会社設立によって社会保険の加入が必要になるため、社会保険料の費用負担や社会保険への加入・脱退に関する事務手間も増えます。
さらに、赤字でも税金が発生する点は最大のデメリットと言えるでしょう。個人事業では、赤字であれば税金の負担はありませんでしたが、法人は赤字であっても、法人市民税と県民税の均等割が課税されます。
個人事業主が法人化するシミュレーション
個人事業主と法人化では、手取りにいくらの差が生じるのか気になる方は多いでしょう。ここからは、個人事業主と法人化の場合に、手取りがいくらになるのかシミュレーションしていきます。
税金額や手取りなどで法人化を検討したい方は、ぜひ参考にしてください。
個人事業主の所得800万円
まずは、個人事業主の所得が800万円のケースで手取りを算出していきます。今回は、事業所得800万円から各種税金や社会保険料を除いた金額を手取りとします。
また、住民税と事業税の税率は自治体によって異なるため注意が必要です。シミュレーションは、京都市在住で販売業を営んでいるケースを想定して計算するので、ご自身で計算するときはお住まいの自治体のホームページで税率を確認しましょう。
例: 事業所得 800万円 所得控除 148万円(社会保険料控除100万円、基礎控除48万円) 課税所得(所得税) 652万円(事業所得800万円-所得控除148万円) 課税所得(住民税) 657万円(事業所得800万円-所得控除143万円) |
所得税 |
894,900円(百円未満切り捨て) (課税所得652万円×所得税率20%-所得控除額427,500円=876,500円 876,500円×復興税率2.1%=18,406円 876,500円+18,406円=894,906円) |
住民税 |
662,600円 |
事業税 |
255,000円 ((事業所得800万円-事業主控除290万円)×税率5%) |
合計 |
1,812,500円 |
事業所得 |
8,000,000円 |
社会保険料 |
1,000,000円 |
税金の合計 |
1,812,500円 |
手取り |
5,187,500円 |
個人事業主の事業所得が800万円のケースでは、5,187,500円が手取りという結果になりました。
法人の所得110万円・役員報酬600万円
次に、法人の事業所得が800万円のときの手取りのシミュレーションを行います。
法人の場合、代表者本人の労働の対償として「役員報酬」を設定しますが、役員報酬は損金として経費計上できます。また、会社が労働者や役員と折半して負担した社会保険料の金額も「法定福利費」という名目で経費計上可能です。
法人は個人事業主よりも経費として認められるものが多いため、個人事業主と同じ所得額でも課税対象となる所得額に差が生じることは知っておきましょう。
今回は計算を簡略化するために、資本金500万円の会社を令和6年から設立したケース(従業員は代表のみ)を想定し、以下の設定で手取りを算出していきます。
各種税金の税率は、所得金額や自治体によって異なります。
例: 法人の所得 110万円(事業所得800万円ー役員報酬600万円ー法定福利費90万円) 役員報酬 600万円 所得控除 138万円(社会保険料控除90万円、基礎控除48万円) 役員の課税所得(所得税) 298万円(役員報酬に対する給与所得-所得控除) 役員の課税所得(住民税) 303万円(役員報酬に対する給与所得-所得控除) |
法人税 |
165,000円 |
地方法人税 |
16,900円(百円未満切り捨て) |
法人県民税 |
21,600円(百円未満切り捨て) |
法人事業税 |
52,700円(百円未満切り捨て) 特別法人事業税:38,500円×37%=14,245円 38,500円+14,200円=52,700円) |
法人市民税 |
59,900円 |
合計 |
316,100円 |
計算した結果、法人の税金額の合計は316,100円です。個人事業主のケースでの税金額の合計が1,812,500円だったので、このケースでは1,496,400円の節税になりました。
法人の手取りは110万円から税金316,100円を引いた783,900円と考えられます。
しかし、法人の税金には、代表者個人の所得税や住民税は考慮されていないため、代表者が得た役員報酬から各種税金の金額を計算し、手取りを算出する必要があります。
役員報酬 |
6,000,000円(給与所得 4,360,000円) |
社会保険料 |
900,000円 |
所得税 |
204,700円(百円未満切り捨て) 200,500円×復興税率2.1%=4,210円 200,500円+4,210円=204,710円) |
住民税 |
308,600円 |
手取り |
4,586,700円 |
法人の所得110万円・役員報酬600万円とするケースでは、代表個人の手取り額が4,586,700円となりました。
個人事業主と法人のケースでの手取り額の差は以下の通りです。
個人事業主の所得800万円のときの手取り(A) |
5,187,500円 |
法人の所得110万円・役員報酬600万円のときの手取り(B) |
4,586,700円 |
A-B(個人の手取りとの差額) |
600,800円 |
法人の所得110万円・役員報酬600万円のケースの方が個人の手取りは 600,800円下がってしまいました。しかし、個人とは別に法人の手取りが783,900円あるため、個人と法人を一緒に考えると183,100円手取りが増えるとも言えます。
役員報酬の額や所得額などによって、個人の手取りが異なります。具体的なシミュレーションが必要な場合は、石黒健太税理士事務所まで気軽にお問い合わせください。
個人事業主から法人化する方がいいケース
法人化のタイミングがわからないと悩む個人事業主の方は珍しくありません。しかし、「手続きが面倒」「事業内容に変更はないから」などの理由で法人化を後回しにすると、節税や事務の負担の面で後悔する恐れがあります。
個人事業主が法人化する方がいいケースについては、以下の通りです。
・所得が800万円を超えている
・年間の課税売上高が1,000万円を超えている
・事業承継をスムーズにしたい
・経営者自身も社会保険に加入したい
・節税対策がしたい
詳しく解説していきます。
ケース1:所得が800万円を超えている
所得税は「累進課税」、法人税は「比例課税方式(一定税率で課税)」が採用されています。累進課税は、所得が高い人に税金の負担を求める制度です。
【所得税率】
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで |
5% |
0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで |
10% |
97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで |
20% |
427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで |
23% |
636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円 以上 |
45% |
4,796,000円 |
(引用:国税庁「No.2260 所得税の税率」)
【法人税率】
所得金額 |
税率 |
年間800万円以下の部分 |
15% |
年間800万円超の部分 |
23.2% |
(参考:国税庁「No.5759 法人税の税率」をもとに作成)
所得税の最高税率は45%なのに対し、法人税の最高税率は23.2%です。法人税は所得額が800万円を超えると税率が一定になるため、所得税よりも税金の負担が少なくなる可能性があります。言い換えると、高所得になるほど、所得税よりも法人税の方が税金は安くなるのです。
事業にかかる税金を抑えたい方は、所得額800万円超を基準にしておくとわかりやすいでしょう。
ケース2:年間の課税売上高が1,000万円を超えている
2年前の課税売上高が1,000万円を超えると、法人や個人関係なく、消費税の納税義務者になります。しかし、個人事業主が法人成りした場合、2年間は法人としての課税売上高がないため、最大2年間は消費税の納税が免除されます。
これまで、年間の課税売上高が1,000万円を超えて消費税を支払っていた個人事業主は、2年間の消費税の免除で「事業に回すお金が増える」「資金繰りに余裕が持てる」など、様々なメリットが得られるでしょう。
例えば毎年100万円の消費税を納付している場合、法人化によって2年分にあたる200万円の消費税の納付が免除される可能性があります。
年間の課税売上高が1,000万円を超えている個人事業主は、法人化を検討しましょう。
ただし、あえて消費税の課税事業者を選択した方がいいケースや、適格請求書発行事業者は消費税の納税義務が免除されないなどの条件もあります。法人化を後悔しないためにも、事前に税理士への相談をおすすめします。
関連記事:自社にあった税理士の探し方は?気をつけることを税理士目線で解説
ケース3:事業承継をスムーズにしたい
法人は個人事業主に比べて事業承継をスムーズにしやすいというメリットがあります。事業承継をスムーズにしやすい理由は、以下の通りです。
・経営者が亡くなった後、口座凍結の心配がない
・経営者交代後も許認可や契約がそのまま引き継げる
・経営者交代の際の事業用資産の引継ぎが楽
個人事業主の場合、口座や諸契約、国や自治体からの認可などは個人で締結するため、代表の変更が生じると再度手続きが必要になります。口座にいたっては、代表死亡による口座凍結が、事業の妨げとなる可能性も否定できません。
しかし、法人の場合は、個人ではなく法人として契約や認可を行っているため、代表者の交代などが生じても手続きは不要です。口座凍結の心配もありません。
また、法人化すれば事業資産は法人の財産となるので、引継ぐ資産も限られ、事務手間も減ります。事業承継をスムーズにしたい方は、法人化がおすすめです。
ケース4:経営者自身も社会保険に加入したい
自治体が運営する「国民健康保険」と健康保険組合などが運営する「社会保険」には、医療給付の内容や保険料額などに、様々な違いがあります。国民健康保険に加入している個人事業主の場合、社会保険に加入することで、以下のメリットを得られる可能性があります。
・将来もらえる年金額が増える
・支払う保険料額が下がる
・医療保険の給付が充実
・一定条件を満たす家族を社会保険の扶養に入れられる
法人化すると、経営者自身も社会保険に加入することになります。個人事業主が社会保険に入れるケースは少ないため、社会保険に切り替えたい方は、法人化がおすすめです。
ケース5:節税対策がしたい
個人事業主よりも法人の方が経費の範囲が広いので、節税が期待できます。
例えば、車両関連費は個人で事業利用している場合、プライベート分と事業利用分の割合を算出し、経費の額を決めます。しかし、法人の場合、車を法人名義にすることで車両代やガソリン代、保険料などを経費にできるため、かなりの金額を節税できるのです。
他にも、法人化によって経費の範囲が広がる費用に「住居費」「出張旅費」などが挙げられます。また、代表者に支払う退職金や報酬も経費計上できるため、大きな節税効果も期待できるでしょう。
節税対策で税金の支払い額を抑えたい方は、法人化を検討してみましょう。
関連記事:法人成りとは?手続きの流れと必要な準備・費用について解説
個人事業主から法人化しない方がいいケース
税金面などでメリットの多い法人化ですが、法人化しない方がいいケースもあります。法人化することで、「税金面で損する」「手続きや事務が煩雑になる」などのデメリットを受ける可能性があるからです。法人化しない方がいいケースは、以下の通りです。
・赤字が続いている
・近い将来に廃業を考えている
・社会保険に加入したくない
詳しく解説していきます。
ケース1:赤字が続いている
法人化のデメリットでもお伝えしましたが、赤字であっても法人市民税の均等割が発生するので注意が必要です。均等割の負担額は自治体によって異なりますが、一般的に年間7~8万円程度です。
一方、個人事業主の場合、赤字経営なら基本的に所得税は発生しません。事業で赤字続きなら、税金の負担が少ない個人事業主の方が節税できるということになります。
また、赤字が続く状態で法人化しても、節税対策などの恩恵を得にくいのも事実です。法人化は黒字が続き、事業が安定してから検討する方がいいでしょう。
関連記事:運転資金の融資が受けられる金融機関は?資金不足を解消する方法を解説
ケース2:近い将来に廃業を考えている
法人は設立時に費用が発生するだけでなく、廃業手続きにも時間や費用、事務手間がかかります。法人の廃業で必要な費用には以下が挙げられます。
・登記費用
・官報公告の掲載費用
・専門家への依頼料
中小企業でも廃業の費用相場は10万円以上となっており、費用が捻出できないケースも珍しくありません。一方で、個人事業主の廃業は、税務署や自治体への廃業届の提出で手続きが完了するため、基本的には費用は発生しません。
近い将来、廃業を検討しているケースでは、費用面や事務手間の面からも法人化しない方がいいでしょう。
ケース3:社会保険に加入したくない
個人事業主は一般的には5人以上の従業員を抱えると、社会保険の加入義務が発生します。条件を満たさないため、従業員を雇用していても社会保険に加入していない個人事業主は珍しくありません。
しかし、会社を設立すると一人社長でも社会保険の適用事業所となるため、社会保険の加入義務が発生します。法人成りした場合は、会社設立から5日以内に加入手続きが必要です。
社会保険の加入を避けたい方は、個人事業主として事業を継続することをおすすめします。
法人化の悩みや税理士に相談!
法人化は、将来の展望や事業規模、所得などを踏まえて慎重に検討する必要があります。十分な検討をしないまま法人化すると、想定外のデメリットが生じることがあるので注意が必要です。
また、法人化に悩む場合は、税務や企業経営に知見のある税理士に相談すると、具体的な対応策やアドバイスが期待できます。法人化での失敗を避けるためにも、まずは税理士への相談がおすすめです。
石黒健太税理士事務所では、起業や創業などのスタートアップに携わった経験豊富なスタッフが在籍しています。税務や経営などの支援実績は200社以上を誇り、融資や節税対策などの様々なノウハウもあります。