専従者とパートはどっちが得?手取りのシミュレーションを解説
目次
- 専従者とパートはどっちが得?
- 家族全体の収入から考えるとパートが得
- 専従者給与が年間38万円未満の場合はパートが得
- 事業主の税金から考えると専従者が得
- 専従者とパートの違い
- 対象者の違い
- 労働時間の違い
- ダブルワークのしやすさの違い
- 給与を支給する人の違い
- 税務上の扶養の違い
- 専従者とパートの手取りをシミュレーション
- ケース1:事業主の課税所得500万円
- ケース2:パートの給与100万円・事業主の課税所得500万円
- ケース3:専従者の給与100万円・事業主の課税所得438万円
- 専従者給与を途中でやめるときの注意点
- 就業期間が6ヶ月以下の場合は経費として認められない
- 配偶者控除や扶養控除は受けられない
- 専従者とパートに関する悩みは石黒健太税理士事務所へ!
「専従者になるのとパートで働きに出るのは、どっちが得なんだろう」このようにお悩みではありませんか?「収入を増やしたいけど、税金で損をしたくない」と考える事業主のご親族は多いです。
税制は複雑なので、比較したくても何を基準として考えてよいのかがわからず、悩んでしまう方が多いのも事実です。
結論から言うと、家族全体の収入から考えるとパートが得と言えます。しかし、事業主の税金から考えると専従者が得です。人によって働き方や考え方があるため、どちらが得とは一概に言えません。
そこで本記事では、専従者とパート、どちらが得なのか徹底比較していきます。節税・労働環境などあらゆる観点から比較をしていくので、最後まで読むと、損をしない働き方や自分のライフスタイルに合った働き方を見つけられるでしょう。
専従者とパートはどっちが得?
比較に当たっては、「世帯収入」「控除額」の2つの観点で考える必要があります。控除額とは簡潔に言うと、税金を計算するときに所得から差し引かれる金額です。
この差し引かれる金額が多いと、事業主の税金は安くなり得になると考えてよいでしょう。この章では、「世帯収入」「専従者の給与収入」「事業主の税金」の3点から得となるケースや考え方を解説していきます。
家族全体の収入から考えるとパートが得
家族全体の収入面から考えると、パートで働く方が得です。なぜなら、専従者給与の場合、事業主が稼いだお金の一部が専従者(親族)の手に渡っているだけで、世帯の総収入は増えていないからです。
ピンと来ない方は、お小遣いを考えるとわかりやすいでしょう。お小遣いは家計のお金を親族の中で回しているだけなので、収入が増えていないことがおわかりいただけるはずです。
つまり、専従者給与はお小遣いに似たお金の流れなので、家族全体の収入面を見ると得しているとは言い難いのです。
専従者給与が年間38万円未満の場合はパートが得
専従者とパートの控除額を比較すると、年間給与が38万円未満のときはパートに入った方が得です。生計を一緒にしている配偶者や親族がいると、一定の要件を満たすと38万円の「配偶者控除」や「扶養控除」の適用を受けることができるため、税金が安くなります。
しかし、親族が専従者になった場合、給与が少額でも扶養に入ることはできないため、配偶者控除や扶養控除は適用されません。その代わり、青色申告書の事業専従者に支払った給与は「専従者給与」として、経費と同様の扱いになるのです。
仮に、妻の年間給与が35万円なら、専従者給与35万よりも、配偶者控除38万を適用して計算するほうが税金は安くなります。年間給与が38万円未満なら、専従者として勤めるのではなく、控除額の高いパートを選んだ方が得と言えます。
事業主の税金から考えると専従者が得
年間給与が38万円を超えるなら、事業主の税金から考えると専従者給与として利用した方が得と言えます。青色申告書の事業専従者給与には金額の上限がありません。専従者への支払額は常識的な金額である必要はありますが、専従者に払った給与が高いほど事業主の所得は減っていくのです。
所得額が減ればもちろん、事業主の税金が減ることにも繋がります。年間給与が38万円を超えるなら、パートで扶養に入って配偶者控除38万円を受けるより、専従者となって事業専従者給与の適用を受ける方が節税できて得と考えることもできます。
しかし、先ほど説明しましたが、家族全体の収入から考えるとパートの方が収入が増えるでしょう。
専従者とパートの違い
お金のことも大切ですが、他にも知っておくべきなのが働き方などの環境面です。専従者とパートでは労働環境などに違いがあるため、自分のライフスタイルに合うのかも含めて検討すべきと言えます。
専従者 |
パート |
|
対象者 |
事業主と生計を一にする配偶者または15歳以上の親族 |
事業所で働く正社員より、1週間の所定労働時間が短い労働者 |
労働時間 |
労働時間の規定なし |
1日8時間以内(週40時間以内) |
ダブルワーク |
青色申告者の事業に専ら従事していればOK |
就業規則や雇用契約書などで認められている場合はOK |
給与を支給する人 |
事業を経営している親族 |
雇用する企業や事業主 |
税務上の扶養 |
扶養に入れない |
扶養に入れる |
対象者の違い
専従者とパートの大きな違いは、家族関係の有無です。専従者になれる要件は、事業主と生計を一にする「配偶者」か「その年の12月31日に15歳以上になる親族」です。
また、事業主と生計を一にしているというのは、同居や別居を問わず、生活費など家計を共有して生活していることを指すので、家計を分けて生活している場合は該当しません。
一方のパートは、労働時間により対象者を決めています。具体的には、事業所で働く正社員よりも1週間の労働時間が短い人がパートの対象です。
参考:国税庁「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
労働時間の違い
税務署から青色申告の事業専従者として認められるには、青色申告者の営む事業に専ら従事していることが要件になります。専ら従事しているとは、所得税法の中で「1年の半分である6ヶ月超は事業に従事していること」とされており、日や週で必要な労働時間や時間の上限は決められていません。
一方のパートでは、労働基準法で原則として「1日8時間以内、週40時間以内」の労働時間が上限であることが定められています。労働時間の上限の有無も、専従者とパートの明確な違いと言えます。
ダブルワークのしやすさの違い
専従者は、パートと比べるとダブルワークしづらいという特徴があります。専従者が副業で働き過ぎたり、副業のせいで事業に支障をきたす場合などは、税務署で事業専従者給与が否認されて、経費にできなくなる可能性があるからです。
また、事業専従者給与の可否は税務署の判断に委ねられる部分が大きいので、ダブルワーク先で働きづらく、不自由に感じる人もいるでしょう。
一方のパートは、雇用先でダブルワークが認められていれば、ダブルワークをしても問題ありません。また、労働基準法第36条で定める協定(サブロク協定)を締結すると、「月45時間、年間360時間」を上限として時間外労働できるので、ダブルワークの自由度が上がります。
関連記事:専従者がパートに出る場合の注意点は?掛け持ちがバレるケースを解説
給与を支給する人の違い
専従者は家族から、パートは一般的には企業など家族以外の雇用主から給与を受けることになります。給与を受け取ると「給与所得控除」の対象になるので、給与を受け取る家族は専従者でもパートでも同じ節税効果が期待できます。
しかし、専従者給与の場合、事業主が家族に支払った給与額を専従者給与という経費にできるので、専従者だけでなく事業主にも節税効果があるのはメリットです。ただし、給与を支給する場合に、源泉徴収の事務手続きが増えるデメリットもあるため、良い点ばかりではないことは知っておきましょう。
税務上の扶養の違い
専従者は税務上の扶養に入れないというデメリットがあります。先ほどもお伝えしたとおり、パートだと扶養に入れるので一定の要件を満たせば、扶養者に38万円の配偶者控除が適用されます。しかし、専従者だと受け取る給与が103万円以下でも配偶者控除は適用されません。
そのため、専従者として家族に働いてもらう場合は、年間の給与額を38万円以上に設定しないとパートで働く場合と比べて税金面で損になってしまうのです。年間の給与額が38万円未満になる見込みなら、パートで働いて扶養に入れば扶養者の税金が節税できます。
専従者とパートの手取りをシミュレーション
専従者とパートの労働環境などの違いについて紹介しましたが、自分はどちらが良いのかわからないと悩む人もいるでしょう。ここからは、実際に所得税と住民税の計算を行い、パートの場合と専従者の場合で、どのくらい手取りに差が出るのかシミュレーションをしてみます。
税金を計算するときは、まず最初に、収入から必要経費や年金・健康保険料などの所得控除を差し引いた金額「課税所得」を算出しなければなりません。
【課税所得の算出方法】
収入-経費-所得控除=課税所得
今回は一例として、課税所得を参考にしてシミュレーションを行います。
ケース1:事業主の課税所得500万円
事業主の課税所得が500万円のケースで、手取りが何円になるのか計算していきます。手取りは収入から経費や社会保険料など様々な金額を差し引いて算出するので複雑です。
ここでは、計算をわかりやすくするために、事業主の手取りの計算は、課税所得に設定した500万円から税金を差し引いて算出した金額としています。
【所得税および復興特別所得税の算出方法】
所得税を納めるときは復興特別所得税もセットで納めることになるため、復興特別所得税についても計算が必要です。
・課税所得×税率-控除額=所得税額
・基準所得税額×2.1%=復興特別所得税額
※所得税率と控除額については、国税庁「No.2260 所得税の税率」を参照
【課税所得500万円のときの所得税および復興特別所得税】
所得税額:5,000,000円×20%-427,500円=572,500円
復興特別所得税:572,500円×2.1%=12,022.5円≒12,000円(百円未満切り捨て)
【住民税の算出方法】
住民税には、所得に応じて金額が決まる「所得割」と所得に関係なく一定金額を課税する「均等割」の2つに分かれています。また、令和6年度の税制改正により、均等割がかかる人は、森林環境税1,000円も支払うことになりました。
・課税所得×税率10%-税額控除額=所得割額
・所得割額+均等割額=住民税額
・森林環境税1,000円
【課税所得500万円のときの住民税算出方法】
均等割額については、自治体によって差があるため、東京都在住のケースを想定して計算してみます。
所得割額:5,000,000円×10%=500,000円
均等割額:4,000円
森林環境税額:1,000円
住民税額と森林環境税額の合計:500,000円+4,000円+1,000円=505,000円
【課税所得500万円のときの手取りの算出】
課税所得500万円から各税金を引いて手取り額を算出します。
5,000,000円(課税所得)-572,500円(所得税額)-12,000円(復興特別所得税)-505,000円(住民税と森林環境税額)=3,910,500円(手取り額)
課税所得500万円のときの手取り額は3,910,500円になりました。
ケース2:パートの給与100万円・事業主の課税所得500万円
では、事業主の課税所得500万円に加えて、パートの年間給与が100万円だったときのパートと家族全体の手取りを見ていきます。まず、パートの年間給与が100万円の場合、所得税はかかりません。
なぜなら所得税の「基礎控除48万円」と「給与所得控除55万円」の合計である、103万円を超えないためです。わかりやすく言うと、差し引く控除額の合計が収入を上回るため、税金がかからないのです。
そのため、パートの年間給与が100万円の場合は、住民税だけがかかります。
【パートの年間給与が100万円の住民税算出方法】
※東京都在住のケースを想定
所得割:1,000,000円(給与収入)-550,000円(給与所得控除額)-430,000円(所得控除額)×10%=2,000円
均等割額:4,000円
森林環境税額:1,000円
住民税額と森林環境税額の合計:2,000円+4,000円+1,000円=7,000円
【パートの手取りを算出】
パートの手取りは給与収入から税金を引いた額になります。
1,000,000円(年収)-7,000円(住民税と森林環境税額)=993,000円(手取り)
ケース1の事業主の手取りが3,910,500円なのでパートと合計すると、4,903,500円が家族全体での手取りです。ケース1と比べて、家族全体ではパート手取り分が増えています。
ケース3:専従者の給与100万円・事業主の課税所得438万円
次にパートではなく、専従者として年間給与100万円をもらっているケースを想定します。このケースでは、専従者はパートの場合と同額の給与をもらっているため、税金の額も当然同額です。
そのため、事業主の手取りを比較することになります。また、事業主が専従者へ支払った100万円の給与は経費扱いになることから、事業者が得た500万円から専従者給与100万円を引いた400万円が所得です。
しかし、専従者は扶養に入れず、配偶者控除38万円が適用されなくなったため、税金を求めるときに使用する課税所得は438万円で設定し、各税金を計算します。
【専従者給与の適用を受けた場合の各種税金額】
所得税額:4,380,000円×20%-427,500円=448,500円
復興特別所得税:448,500円×2.1%=9,418.5円≒9,400円(百円未満切り捨て)
住民税額と森林環境税額の合計:438,000円(所得割額)+4,000円(均等割額)+1,000円=443,000円
【事業主の手取り】
専従者とパートの節税効果を比較しやすいよう、ケース2と同様に事業主の500万円から税金を差し引いて手取りを算出します。
5,000,000円-448,500円(所得税額)-9,400円(復興特別所得税)-443,000円(住民税と森林環境税額)=4,099,100円(手取り額)
家族全体の手取りは4,099,100円ー7,000円(専従者の住民税と森林環境税額)=4,092,100円
ケース2と比べると、事業主の手取りは増えたように見えます。
ケース2の事業主の手取り |
3,910,500円 |
ケース3の事業主の手取り |
4,099,100円 |
差額 |
188,600円 |
しかし、手取りのうち100万円は専従者給与として、家族の財布に動くだけなので、家族全体での収入は増えていないことがわかります。
ケース2の家族全体の手取り |
4,903,500円 |
ケース3の家族全体の手取り |
4,092,100円 |
差額 |
△811,400円 |
ただし、あくまでシミュレーションです。実際は社会保険料や年金などの支払金額を考慮して算出する必要がありますので、全てのケースにおいて、今回と同様の節税効果があるとは断定できません。
専従者とパートの手取りについての悩みは、石黒健太税理士事務所へ気軽にご相談ください。
専従者給与を途中でやめるときの注意点
「専従者として働いているけど、パート扶養に切り替えたい」と悩んでいないでしょうか。ここからは、専従者給与をやめるときの注意点について紹介していきます。
注意点を理解していれば、事業主が税金面で損するリスクを減らせるので、ぜひ参考にしてください。
就業期間が6ヶ月以下の場合は経費として認められない
専従者として就業した期間が年間で6ヶ月以下のときは、専従者給与が経費として認められない可能性があるので注意が必要です。これは、青色申告書の事業専従者として認められるには、「1年の半分である6ヶ月超は事業に従事していること」が要件になるからです。
専従者の給与を経費扱いにして節税したいなら、最低でも半年間は専従者として従事してもらう方がよいでしょう。ただし、青色事業専従者に関する届出を税務署に提出したのが年の途中の場合は、専従者が事業に従事してから年末までの従事可能期間のうち、半分超従事すれば経費として認められます。
配偶者控除や扶養控除は受けられない
専従者給与として支払っている場合は、配偶者控除や扶養控除との併用はできません。年の途中で専従者給与を廃止して新たにパートを始めても、その年は配偶者控除や扶養控除を適用した節税はできないため、注意が必要です。
ただし、就業期間が6ヶ月以下で専従者給与の要件を満たさない場合は、配偶者控除や扶養控除は受けられるでしょう。
専従者からパートの切り替えは、税務署に届出を提出するタイミングも大変重要と言えます。配偶者控除の適用については、自身の状況に応じて慎重に検討しましょう。
関連記事:個人事業主が税金貧乏になる理由は?対策とお金の残し方を解説
専従者とパートに関する悩みは石黒健太税理士事務所へ!
本記事では、世帯の収入や働き方など、あらゆる観点から専従者とパートを徹底比較しました。実際のところ、人によって税金を計算する際に使用する控除額が違うので、今回のケースがあなたに当てはまるとは言い難い部分があります。
石黒健太税理士事務所では、扶養だけでなく経費やその他の控除などについて、個々の状況に応じた最適な節税対策をご提示します。また、様々な事業や業界で支援実績があり、個人事業主の方だけでなく法人での節税対策も経験してきました。