経理業務は自動化される? ~自動化のメリットとポイントを解説~
ご存じの方も多いと思いますが、2015年に衝撃的な試算結果が発表されました。なんと、日本の労働人口の約49%の職業がAIやロボットに代替可能だというのです!
(株式会社野村総合研究所、2015年12月2日:https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf)。
このニュースリリースの中で示された「代替可能性が高い100種の職業」の一つに、「経理事務員」が含まれています。
本当に経理業務のすべてをAIが奪ってしまうのでしょうか?
今回は、経理業務の「自動化」について考えていきたいと思います。
自動化できる業務と自動化できない業務とは?
経理業務は一般的に、定型的なルーティン業務が多く、自動化に向いていると考えられます。では、自動化できる定型的な経理業務とはどんなものがあるでしょうか?
★自動化できる業務
・伝票入力(仕訳入力)
毎月同じような取引が発生し、定型的な仕訳が多いため、自動化したい業務です。
各社の会計ソフトには、多くの場合自動仕訳機能が搭載されており、インターネットバンキングやクレジットカードのweb明細などの各種クラウドサービスから情報を取り込んで自動で仕訳を作成してくれます。一つ一つの仕訳を手作業で行う必要がなくなり、大幅な効率化につながります。
・経費精算
経費精算も、全従業員が毎月行う定型的な作業ですので、自動化したい業務の一つです。全従業員がかかわる業務ですので、作業時間削減などのメリットも感じやすいです。
システム開発各社も経費精算システムの開発には力を入れており、会計ソフトやクレジットカード・交通系ICカードとの連携ができるなど、機能も盛りだくさんです。
・請求書発行/入金消込
請求書発行業務は、①取引先ごとの納品実績の把握、②取引先からの入金額の消込、③請求額の確認、④請求書発行(データor郵送)など、複数の工程を含むため、すべてを完全に自動化するのは難しいかもしれません。
しかし、入金消込のクラウドサービスや、電子請求書の自動発行サービスなどを利用して、業務の一部を自動化することが可能で、それらのツールを上手に組み合わせることで効率化を図ることができます。
★自動化できない業務
上記の通り、現状で自動化できるのは、定型的な業務がほとんどであり、経理業務のすべてを自動化できるわけではありません。
また、自動化できる業務についても、その運用管理や最低限のオペレーションはやはり人手をかけて行わなければなりません。例えば、一度決めた自動仕訳ルールなども常に更新し続ける必要があります。
さらに、自動化されたそれぞれのシステム間の連携の設計や、手作業での業務との全体設計などにおいては、人の介在が不可欠です。全体設計の良し悪しによって、自動化の効果は大きく左右されます。自動化の導入によって業務全体がかえって非効率になった、という事例も見聞きします。
自動化のメリット5つ!
では、経理業務を自動化することで、どんなメリットがあるのでしょうか?
・人的なミスを削減できる
手作業での経理業務においては、入力ミス、転記ミス、集計ミスなど様々な段階での人的なミスがどうしても出てしまいがちです。自動化が進むことによって、銀行や会計ソフトとの連携が進めば、上記の人的ミスを削減することが可能です。請求漏れや二重請求などの削減にも役立ちます。
・作業時間の短縮
経理業務の自動化により、人が関わる作業時間を削減できます。また月末などに作業が集中することも緩和でき、残業時間の削減にもつながります。企業として労働環境の改善や従業員の満足度向上も期待できます。
・コスト削減
作業時間の短縮によって、残業代などのコストの削減が期待できます。また、自動化により納品書・請求書・領収書などの帳票の電子発行が進みますので、印刷代(紙代)や郵送料などの付随するコストの削減も期待できます。
・より重要な仕事に力を注ぐことができる
自動化によって定型的な経理業務から解放されますので、単純作業ではなく判断が求められる作業、例えば予実管理や財務戦略の提案など、より重要な仕事に時間を使うことができるようになります。
・タイムリーな経営判断につながる
自動化によって作業時間が削減され、各月の試算表がより早く出せるようになります。よりリアルタイムに近い経営成績をもとに、経営陣はタイムリーで適切な経営判断ができるようになります。
自動化を進める方法とは?
自動化でさまざまなメリットが見込めることが分かりました。では、具体的に経理業務の自動化にはどのような方法があるのでしょうか?
・Excelのマクロ機能
まず、普段の業務で使っているExcelの機能を使って業務の自動化を考えてみましょう。Excelには、マクロ機能が搭載されています。この機能を使えば、複数の命令を順番通りに行うよう設定できますので、Excelで行う定型的な作業を自動化できます。
現在行っている業務の効率化には有効ですが、経理業務全般のなかでの位置づけとしてどの程度重要性があるか、検討する必要があります。
・RPAの利用
RPAとは「ロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation)」の略です。コンピュータ上ではたらくソフトウェアロボットのことで、RPAによって定型的な作業を自動的に処理することができるようになります。例えば、会計システムと他のシステムとの間のデータのやり取りをRPAで自動化する、などの使い方が考えられます。
ただし、RPAの導入は人材面やコスト面から小規模な企業にはややハードルが高いため、十分な検討が必要と思われます。
・自動仕訳のできる会計ソフトの利用
すでに述べた通り、インターネットバンキングやクレジットカードのweb明細などの各種クラウドサービスから情報を取り込んで自動で仕訳を作成する機能を持つ会計ソフトが開発されています。また、下記で述べる経費精算システムや請求書発行システムと連携させることも可能ですので、経理業務の多くの部分を自動化することができます。
各種クラウドサービスを利用することを想定すると、会計ソフトもクラウドサービスを用いるのが合理的だと考えられます。
中小企業におすすめのクラウド会計については、こちらをご参照ください。
↓
【中小企業におすすめのクラウド会計ソフトとは?検討ポイント3つを紹介!】
https://ishiguro-tax.jp/wp-cms/blogpost/cloudsystem/
・経費精算システムや請求書発行システムの利用
経理業務で行うルーティン作業の中で、特に大きな負担となっているのが「経費精算業務」や「請求書発行業務」です。こちらも「経費精算システム」や「請求書発行システム」を導入することで、かなりの業務を自動化することができ、また関わる従業員も多いことから業務効率化のインパクトも大きいです。
すでにシステム開発各社から便利なシステムが数多くリリースされていますので、自社の業務内容にあったシステムを選ぶことができます。
一例として、マネーフォワードの経費精算システムについては、こちらをご参照ください。
↓
【マネーフォワードクラウドの経費精算の極意!】
https://ishiguro-tax.jp/wp-cms/blogpost/moneyforward-02/
自動化の罠~自動化を進めるポイント~
ここまで、経理業務の自動化についてそのメリットや導入方法について述べてきましたが、導入に当たってはいくつか気を付けるべきことがあります。
・業務の可視化が不可欠
まずは現状の経理業務の業務内容をしっかり可視化することが必要です。業務フローや各段階での業務内容、具体的な作業工程などをフローチャートなどで可視化しましょう。
業務の可視化が十分でない場合、経理業務全体の中で自動化を進めるべき部分はどこか、適切な自動化システムの選定、自動化に対応した業務フローの変更などの全体設計がうまくいかず、かえって効率が悪くなったり、業務の重複が生じたりするなどの不具合が生じる場合があります。
・導入後の運用
経理業務の自動化システムの導入は、導入すれば終わり、ということはありません。自動仕訳機能を例にとりますと、初期設定がうまくいって銀行やクレジットカードの情報を自動取込・自動仕訳ができるようになっても、新たな取引が生じたときや非定型的な取引など、常に自動仕訳ルールの更新が求められますし、AIの判断間違いをチェックしてAIの精度を向上させ続ける作業も必要です。
・経理業務に求められるスキルが高度化
経理作業を自動化することにより、定型的なルーティン作業はシステムが行ってくれるようになりますが、その分、上記のような人が介在して高度な判断を行う必要性が増大します。これらの判断にはある程度のITスキルも必要となり、経理業務に求められるスキルが高度化します。
まとめ
・経理業務に付き物の定型的なルーティン作業については、自動化に向いている。
・経理業務を自動化することで、さまざまなメリットが見込める。
・自動化に使えるクラウドサービス(会計システム、経費精算システムなど)が数多くリリースされていて、すぐにでも導入が可能。
・自動化を行うにあたっては、事前の全体設計や導入後の運用に気を付ける必要がある。
経理業務の自動化については、上記のようにまとめることができます。
ここまででお分かりの通り、会社の業務の生産性向上のためには、経理業務の自動化を進めることが大変有効です。ただし、全体設計や導入後の運用も含めた適切な導入を行う必要があります。
自社の経理業務の内容をよく知っている税理士などの専門家に相談しながら導入を進めると、スムーズに経理業務の自動化を行うことができるでしょう。